《文・竹内栄子》
「築地市場は閉場しています。営業はできません・・・」。
高く張り巡らされた白い工事用パネルの向こうから、無機質な声だけが聞こえてくる。都の職員が“ 警告 ”しているのだ。
ねじり鉢巻きに長靴姿の仲卸業者が応酬した。「あんたら出て来て話しなさい」。
東京都が築地市場の解体に着手して10日目のきょう、営業権組合に加盟する仲卸たちが築地市場正門前で「お買いものツアー」を敢行した。今週から火・木・土曜日に行っている。
ツアーと言っても、もう市場内に立ち入ることはできない。18日には工事用出入口から場内に入れていたが、日を追うごとに都の「築地要塞化」はエスカレート。アリの這い出る隙間もないほど有刺鉄線や工事用パネルで覆われてしまった。
木曜日、業者らは正門の工事用パネルと横断歩道を分ける数十センチの隙間に体をねじ込んで販売活動した。今日確認したところ隙間にはカラーコーンが置かれ、入れないようになっていた。
仲卸業者が隙間に入ると、都が潰す。いたちごっこも、こうなると滑稽である。
18日の解体工事開始日には、「移転反対派が場内乱入」という絵を撮るために群がったマスコミ取材陣も、全くいなくなった。警察車両もない。
ツイキャスなどの市民メディアが見守る中、妨害もなく営業活動は終了した。だが、問題もなくはない。
食品衛生法などに配慮して、乾物や瓶詰などしか扱えず、支援者がリピートするにも限界がある。参加業者の数も限られている。
また、完全に解体工事の現場と切り離されているため、建物の保全はできない。理論上の運動でしかなくなってしまうこともある。
東京都が築地場内に私物を置いている業者に対する仮処分の通知は、当人たちに届いたそうだ。「これからどう対応するか?」との拙ジャーナルの問いに、仲卸業者の一人は「裁判(営業権)などでやっていく」と答えた。
こうした中、お買いものツアーの一部始終を見ていた男性がいた。料理評論家の山本益博氏に似ていたので声をかけたが、はぐらかされた。違ったかもしれない。
山本氏は映画『築地ワンダーランド』(2016年、松竹)の中で築地市場のことを「世界一じゃない、世界唯一です。あれに匹敵するものは世界中に一件もない。断言できます」とコメントしている。
築地市場に関する著作がある学者・文化人らは、豊洲移転に伴う混乱状況をどう思っているのだろうか。豊洲が世界唯一になれるのかどうか、といった発信が今こそ待たれるのだが。
~おわり~