あの時、彼の警告に耳を傾けていれば世界はここまで危険にならずに済んだ。
彼とは元レバノン大使・天木直人。ブッシュの米国がイラクに侵攻した2003年3月 ―
「国連決議なしのイラク攻撃は何があっても阻止すべきである」「日本政府はそれを支持してはならない」・・・
レバノン大使(当時)の天木は2通の公電を本省(外務省)に打った。「本電を総理、官房長官に供覧願いたい」と添えて。
間もなく、天木は大使を解任され、外務省をも退職させられた。
「小泉(首相)は公電を読んでいない。外務省が最高権力者の意を汲んで、私を解任、退職に追い込んだ。(手を下したのは)竹内行夫次官、北島信一官房長(いずれも当時)」と天木は見ている。
公電の中に次のような一節がある。「米国によるイラクの民主化や中東地域の再編は、必ずや中東の民の抵抗にあい中東情勢はさらなる混迷に突入するであろう、と皆が口を揃えて指摘する」と。
実際に多くのレバノン人がそう予言していたそうだ。不幸にも予言は的中した。
「攻撃するのは簡単だが、攻撃しても解決しない。レバノンの人たちは見抜いていた」。天木は当時を振り返る。
宗教もそこそこ自由で商業も活発なレバノン。首都ベイルートは中東のパリとまで云われた。クロスロード(十字路)には情報もスパイも集まる。
日本政府は、せっかくの情報を活かせなかった。
「来年(日本で)IS問題が起きる。米国に日本がどんどん巻き込まれる。(にもかかわらず)官邸は自分の都合しか考えていない・・・」
情報の宝庫で磨き抜かれた天木の分析が、またもや的中しないことを願うばかりだ。
(敬称略)
~終わり~