「前進」「膝を落とせ」…教官の掛け声を受けて年若い兵士たちが訓練に励んでいた―
民兵アゾフ連隊の本部基地はマリウポリから車で1時間余り走った郊外にあった。
寒冷のウクライナにあって海辺の広大な敷地は別天地のように暖かい。軍事施設にそぐわない豪華庭園は、2月の政変で追放されたヤヌコビッチ前大統領の別荘だった。
訓練兵たちの動きはぎこちない。カラシニコフがまだ手になじんでいないようだった。果たして親露派武装勢力と戦えるのだろうか?
教官に聞くと「(親露勢力との)戦闘経験がある者もいれば、ない者もいる」と話した。
筆者は他の民兵たちにインタビューしたが、皆「戦闘経験はない」と答えた。
24歳の民兵は6か月前まで外国語学校の教師だった。民兵になった理由を聞くと「国を守るため」と語った。
23歳の元エンジニアと18歳の元学生も、「国を愛しているから」と答えた。
2人とも戦闘経験はないというので、「親露勢力と戦って死ぬ覚悟はできているのか?」と尋ねた。
2人は「敵と戦って死ねば天国に行ける」と異口同音に答えた。ただし、彼らはイスラム教徒ではない。殉教ではないのだ。
21歳の元船乗りはクリミア半島出身だった。今年3月、故郷がロシアに力づくで併合されると、家族ともどもウクライナ本土に逃れた。
「(民兵になったのは)ロシアへの反発からだ」。元船乗りは目をすえて話した。彼もまた「敵と戦って死ねば天国に行ける」と答えた。
念のために言っておくが、3人ともイスラム教徒でもジハーディストでもない。
ある老兵52歳の話はウクライナの歴史を代弁しているようだった―
「生まれた村は、帝政ロシアの時代に2回、ソ連時代に7回も名前を変えられたんだ」「1977年までは学校ではウクライナ語の時間の方が長かったが、77年を境にロシア語の時間の方が長くなった」「俺は愛国者だ」・・・老兵はまくし立てた。
民兵たちが履いている靴はブーツだったりスニーカーだったりする。ちゃんとした軍靴を履いている民兵は一人として見かけなかった。
前出の老兵がまとっていた戦闘服は、ドイツ軍の お下がり だ。戦車などの戦闘用車両はいずれも骨董品レベルの旧式だった。
バックについているのは大した富豪ではないようだ。まして大国がついているとは考えにくい。愛国心だけでロシアを相手に戦争をするのは厳しい。