夕闇迫る渋谷ハチ公前広場は、聴衆で埋め尽くされた。スクランブル交差点向こう側の歩道まで人で一杯だ。「滞留しないで下さい。速やかに移動して下さい」。渋谷警察署のスピーカーがひっきりなしに繰り返す。
参院選投票日(21日)の前夜祭を思わせる「選挙フェス」(三宅洋平候補主催)は、従来の選挙運動のイメージをガラリと変えた。大政党が動員をかけて、候補者が耳触りのいい公約をツラツラと並べる街頭演説会の面影はひとかけらもない。
聴衆はネットの呼びかけと口コミで集まって来た人ばかりだ。「フェス」の模様もネットでライブ配信される。午後7時を回った頃、三宅候補と二人三脚で選挙を戦ってきた山本太郎候補がステージにあがると聴衆のボルテージは最高潮に達した。
山本候補は「原発」「過労死」「TPP」について話すと「選挙に行って下さい。御願いです」と訴えた。「選挙に行かないと自民党が力を持つ。憲法を変えられる。自衛隊が国防軍になる」と説明した。
「あなたが自民党に入れた票は赤紙となって返ってきます」。山本氏は続けた。
相棒の三宅候補は戦争放棄を謳った「憲法第9条」を朗読した。「イージス艦一隻分のカネで平和システム作るぜ。ワールド・ピース・ガバメント作るぜ」。三宅氏が声を張り上げると、割れるような拍手が鳴り響いた。
参院選挙でマスコミの予想通り自民党が圧勝すれば、憲法改正もTPPも労働法制の緩和も思いのままだ。とりわけ安倍首相は憲法改正と国防軍の創設に意欲を示す。
戦争に前のめりとなる安倍政権の姿勢を裏打ちするように、自民党の石破幹事長はテレビ番組で「戦場に行かない者は死刑か懲役300年」と述べた(『BS-TBS報道部』4月21日放送)。自民党ナンバー2である石破幹事長の発言に昭和初期の暗い時代を連想した人は少なくないはずだ。
ハチ公前広場に若者や子連れの母親が目立ったのは、危機感の表れだろうか。若者は徴兵され、母親は我が子を戦地に送り出すことになる。
自民党に立ちはだかれる野党はいない。マスコミが戦争の旗振り役となったことは先の戦争が証明している。もっと身近に言えばイラク戦争(2003年)がそうだった。日本の新聞・テレビはこぞって「ブッシュの戦争」を支持したのだ。
~三宅洋平候補「自分で決めて自分がメディアにならなきゃ」~
野党は頼りない。マスコミは戦争遂行勢力。全身全霊を込めて反戦を政策に掲げる山本候補と三宅候補には、否が応にも期待が集まる。
1歳8か月の子どもを背負った母親(目黒区・38歳)は次のように話す―
「子どもたちの将来、世界にもつながることは、どうにかしなくちゃいけない。(だが)今までの政治は教科書の中のものだった。彼ら(三宅、山本両氏)が出てきたことによって、政治が私たちとつながり、民意が伝わるものに変わる。そう期待できる」。母親は子どもをあやしながら真剣なまなざしをステージに向けていた。
別の女性(都内・40代)も2人に期待を寄せる。「今までにも同じようなことを言ってきた候補者はたくさんいたが、若者が共感できるような人はいなかった。(だが)彼らからは本気で変えようという気持ちが伝わる。当選して国会に行けば政治がもっと身近な存在になる」。
これまで選挙で世論をリードしてきたのは、時の政治権力と表裏一体にあるマスコミだった。だが今回の選挙からインターネットが解禁となり、誰もが世論形成に参加できるようになった。
「すべてのオフィシャルな情報は俺たちの真実の後をしたり顔で何年も後についてくるものなんだよ。自分で決めて自分がメディアにならなきゃダメなんだよ。今の福島がいい例。危ないものは危ないんだよ。真実を伝えましょう」。
三宅候補がこう締めくくり「選挙フェス」の幕が降りた。選挙のあり方が明らかに変わろうとしている。日本を取り戻したい。でもその前に選挙を国民の手に取り戻したい。
(文・田中龍作 / 諏訪都)