「タイイップ(エルドアン首相)、イシティファ=エルドアン首相は辞任しろ」。大合唱に沸くタクシム広場から車で20分も走ると、カスムパシャ地区に着く。
細い道がくねくねと続き、間口の狭い古ぼけた商店が並ぶ。典型的なダウンタウンだ。レジェプ・タイイップ・エルドアン氏はここで1954年に生まれた。
首相の出身地だから見事な橋が架かり、広い道路が真っ直ぐに走っているのかと思ったらそうではなかった。風致地区のため、街並みを改造することはできないのだそうだ。
道路は狭く建物はすすけたままだが、サッカースタジアムは目をみはるほど豪華だった。ブルーと白の真新しいシート、芝生はきれいに刈られている。
大のサッカーファンの首相が、粗末だったスタジアムを巨費を投じて改装したのだ。選手強化にも力を入れた。大枚をはたいて一流選手をスカウトし、弱小球団を一部リーグに昇格させたのである。
サッカースタジアムの名称も、「カスムパシャ・スタジアム」から「レジェプ・タイイップ・エルドアン・スタジアム」に変わった。
貧民層の出身だったエルドアン氏は権力の階段を駆け昇り、2003年、首相の座に就く。経済政策に力を入れ、貧富の差を縮めたとの評価もある。大量に住宅を建設し低所得者層でも家が持てるようにした。
出身地のカスムパシャ地区の喫茶店をのぞいた。小ぎれいな格好の中高年で満席だ。彼らはチャイ(茶)を啜りながら日がな一日、よもやま話に花を咲かせるのである。皆、年金生活者だという。
「足には靴とズボン。着る物にも不自由しない。昔は貧乏でどうしようもなかった。タイイップ(エルドアン首相)のおかげで定年退職者でも十分な年金がもらえるようになった」。ケマル・ウルケルさん(63歳・元小売商)は、目を細めながら話した。
すべての公共事業はエルドアン首相率いるAKP(公正発展党)が受注するといわれている。今回のオキュパイに発展した公園周辺の再開発もエルドアン首相のファミリー企業が建設を請け負うことになっているようだ。
利権構図に納税者が怒り公園を占拠、広場に集まったのである。タクシム広場そばの商店街では、オキュパイの若者たちがビラを貼りつけていた。「あなたが奪ったものはキッチリ返して頂きますからね」。太く書かれたフレーズが目に飛び込む。
エルドアン首相の金権政治に対する世論の高まりを見ていると、田中角栄首相を思い起こす。貧しい家に育ったことも似ている。田中角栄は土地ころがしなどの金脈問題を批判され辞任に追い込まれた。
エルドアン首相と交流のある日本人実業家は「タイイップを見ていると田中角栄に思えて仕方がない」と苦笑する。
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