「レセプ(タイープ・エルドアン首相)よ! 飲まないと人は攻撃的になるんだよ」。ゲジ公園入口で民衆にひっくり返されたパトカーに貼られたメッセージだ。
庶民の反発をよそに「夜間の酒類販売禁止法」を成立させたエルドアン首相は、国会で反政府デモについて質問された際、「参加者は攻撃的な人だ」と答えた。メッセージはそれへの強烈なあてつけだ。
メッセージの横にはアタチュルクの写真がある。近代トルコ建国の父アタチュルクは大酒飲みだったことで知られる。“禁酒法”は国民の英雄をも否定することにつながり、それがエルドアン首相への反発を生んでいる。
転覆したパトカーの上に乗っている男性(50代)は、酒とは別の意味でエルドアン首相への憎しみをたぎらせる。男性はイスラム教アラウィー派だ。エルドアン首相はスンニ派。
男性は電話線を敷設する会社を経営している。「アラウィー派というだけで自治体や公共機関から仕事が来ない」「それだけじゃない。エルドアンは(ボスポラス海峡に架ける)第3の橋にアラウィー派を虐殺したスルタンの名前をつけたんだ」。彼は怒りをぶちまけた。
首相は国民に意見を聞くこともなく、他派を虐殺したスルタンの名前を橋につけたというのだ。イスラム教特有のセクト主義が顔を見せる。
エルドアン首相はさらに人々の反発を買う政策を打ち出す。タクシム広場の「アタチュルク文化センター」を取り壊してオペラハウスにすると明らかにしたのである。未だに国民の尊敬を集めるアタチュルクを否定するような政策だ。
エルドアン首相の進めるイスラム化は行き過ぎになるのではないか? 国民は疑念と反発を募らせる。
エルドアン氏の独断専横は若年層にまで広く反発を買っているようだ。ゲジ公園でオキュパイする女子高校生は次のように話した。「タイープ(エルドアン首相)はディクテーター(独裁者)。アタチュルクは民の声に耳を傾けたが、タイープは耳を貸さない」。
エルドアン首相率いる与党AKP(公正発展党)は、議会で単独過半数を占める。「アタチュルクが世俗主義を掲げて政教分離していなかったら、今のトルコはない」というのが大方の見方だ。
エルドアン氏は力を背景に歴史をも否定しようというのだろうか。
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