「強きを助け 弱気をくじく 汝の名は検察」。こう言いたくなる1日だった。
原発事故で放射能をまき散らし、夥しい数の住民に健康被害をもたらした東電と政府。強者の典型だ。
親分である議員が痛くもない腹を探られないように政治資金を小分けにして収支報告書に記載した秘書。こちらは弱者だ。
原発事故をめぐり東電と政府高官を業務上過失致死傷罪などで集団告訴している福島告訴団がきょう午前、東京地検(福島地検と合同捜査)を訪れ担当の検事に「しっかり捜査するように」と申し入れた。
大きな事故が起きればすぐに強制捜査が入るのに、東電や政府機関には強制捜査が入らないのはおかしい、というのだ。
告訴団の河合弘之弁護士らは以下のように申し入れた―
▲東電本店にガサ入れして取締役会、常務会などの議事録を押収して読み込めば事実が分かるはず。
▲現場検証をすべし。放射線量が高くて検証できないというのなら、線量が下がるまで処分(起訴、不起訴)を決定するな。早くやれなんて言わない。しっかり事実を究明しろ。
▲子どものガンが4~5年後に爆発的に増えたらどうするのか?
申し入れに対して担当検事はメモをとりながら頷いていたという。コメントは一言もなかったそうだ。
告訴団は先月22日にも同種の申し入れをしたが、ネットメディアなどで報道されたため反響が大きく、新たに6万3,501筆もの署名が寄せられた。
福島告訴団事務局の地脇美和さんは「甲状腺に異常を持つ子どもを抱える母親が相当な割合でいる。こうした人の怒りが署名に込められている」と語る。
「東電に強制捜査が入り、押収した書類をダンボールに入れて持って行く光景をテレビで見たい」。地脇さんは眼差しを遠くに置きながら話を締めくくった。
きょう午後、検察の国策捜査により政治資金規正法の罪に問われ、1審で有罪判決を受けた小沢一郎議員の元秘書に対する控訴審判決が言い渡された。東京高裁は1審を支持し控訴を棄却した。元秘書たちは2審も有罪となったのである。
政治資金規正法違反の罪に問われていたのは、大久保隆規被告、石川知裕被告ら。石川氏は現在、衆院議員。
起訴状などによると石川秘書(当時)と大久保秘書は2004年に小沢氏名義で土地を購入した際、その年の収支報告書に記載せず、翌年に記載した。これが虚偽記載にあたるとして政治資金規正法違反の罪に問われた。「期ズレ」を突かれたのである。
ある国会議員秘書は「これ(期ズレ)でやられたら秘書は皆やられる」と話す。収支報告書は公開されるため、あれこれと詮索される。親分(議員)は痛くもない腹を探られることとなる。そうならないようにするため、子分(秘書)は小口に分けて収支報告書に記載したりするという。
検察が当初描いたストーリーは――
2004年は胆沢ダム(岩手県)建設の入札時期と重なっていた。岩手県の公共工事発注に影響力を持っていた小沢氏が、口利きの謝礼として1億円を水谷建設に要求し、受領したとしている。石川秘書と大久保秘書は、これを隠すために2004年の収支報告に記載しなかった、というのである。
検察は贈収賄での立件を見送った。にもかかわらず1審は起訴事実にもない水谷建設からの現金授受を動機として推認した。被告弁護側は現金授受を否定するアリバイや書証を提出したが、東京高裁はいずれも却下した。
裁判長は東電OL殺人事件で1審は無罪だったゴビンダ・マイナリさんを一転有罪にした飯田喜信裁判長だ。
「控訴を棄却します」。声質は柔らかいが冷たく響く飯田裁判長の判決言い渡しを石川氏は仁王立ちで聞いた。怒りからだろうか、聞き終えた表情は鬼のようにこわばっていた。即刻、最高裁に上告した。
判決後の記者会見で石川氏は「判決が確定したら粛々と従うが、記載ミスで議員の職を失うことは適当ではない」と話した。政治資金規正法は形式違反だけでも摘発できるようにできているのだ。
同席した鈴木宗男・新党大地代表は「検察に狙われたらお終い」と喝破した。