「子どもを預けて働きたいのに…」。認可保育所への入所を希望したが承認されなかった足立区の母親たちが、きょう、区役所を訪れ行政不服審査法(※)に基づく不服申立てをした。
再開発が進み人口が急増する都会の自治体では、認可保育所不足が深刻な問題となっている。足立区では今年、2,148人の募集定員に対して3,740人が応募。母親の就労時間などで審査した結果、約1,500人が認可保育所に入所できなかった。(足立区は1,500人を『不承諾』とした)
東京都の認証保育所があるが、園庭がなく保育士の数が少ないなどの不安がある。保育料が認可保育所に比べて平均で2倍もかかる。認可外の保育施設ともなれば高い所で10~15万円にもなる。家計にとって大きな痛手だ。
子どもを預けようにも経済的に困難だ。さりとて母親も働かなければ家計は立ちゆかない。子供を認可保育所で預かってもらえない足立区の母親たちが、行政に異議申し立てをした背景だ。
母親10余人は22世帯分の「異議申立て書」を、足立区子ども家庭部の山岡徳司部長に提出した。
提出に先立ち、甲斐ゆきさんが「認可保育所に子どもを預けて働こうとする区民のニーズを汲み取ろうとしない行政に憤りを感じる…(中略)私たちが足立区で長く安心して子育てしていけるように迅速な対応を望みます」と訴えた。
山岡部長は「足立区として真摯に受け止めて待機児童解消に努めます」と判で押したように答えた。
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一家の生活と子どもの将来がかかる問題だけに母親たちは懸命だ。11ヵ月の男児を抱え現在育児休暇中の母親(39歳)は―
「4月から復職するはずだった。だが認可保育所は『不承諾』。認証保育所に空きがあったが、徒歩で30分もかかる。毎日子どもを連れて行けるとは思えない。正社員で1年の育休を取っていたが、『会社は自分のポジションの人材(後任)を探し始めた』と職場の同僚から聞いた。子供を抱えてゼロからの職探しは本当に難しい」。
待機児童の数は全国で24,825人、うち東京都は7257人。大阪、神奈川など大都市部に19,682人も集中している。
ただし、役所が言う待機児童には、認可外保育所や地域のサポートシステムに預けられている子供は含まれていない。これらを加えると認可保育所を必要としている児童は4万233人に上る。(以上、厚労省・「平成24年4月1日現在 保育所関連とりまとめ」に基づく)役所の数字以上に実情は深刻なのである。
杉並区の母親たちが22日、異議申し立てをした結果、区は認可保育所の枠を増やした。
記者団から「杉並区のように枠を拡大するつもりはないのか?」と質問された足立区子ども家庭部の山岡部長は「異議申し立てを受けて拡大することはない」と答えた。
山岡部長は受け容れ人数を増やさない理由として「財政上の負担と子どもの数が来年をピークに減少すること」を挙げた。
安心して子どもを産めなければ人口は減る。しかも母親たちは存分に働けない → 税収増が見込めないため認可保育所を増やせない → 安心して子供を産めない → 人口は減り、母親たちは働けない → 税収増は見込めない……悪循環は続く。袋小路に入ったとも言える。
富を生むはずの女性の労働力を奪い、人口が急速に減少する国に未来はない。オリンピック誘致の無駄使いひとつ止めるだけで認可保育所が何軒もできるだろうに。
《文・田中龍作 / 諏訪都》
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※行政不服審査法
行政機関の処分等によって不利益を受けた国民が不服を申し立て、行政機関が審査する手続きについて定めた法律。審査請求(上級の監督官庁への不服申立て)と異議申立ての2通りがあり、異議申立ては、処分をした役所に対して行う不服申立て。審査請求ができない場合や、特に法律に定められている場合に行う。(総務省HPより)