福島の住民たちが原発事故を引き起こした東電の旧・現経営陣と政府の役人を業務上過失致死傷などで検察庁に告訴・告発して8ヵ月が経つ。
だが肝心の検察庁が本気で捜査しているようには見えない。その気で取り組んでいるのであれば、東電や経産省の原子力安全・保安院に家宅捜索が入っていたはずだ。
東電の事故隠しに手を貸していた保安院は、昨年9月原子力規制庁に衣替えし、霞が関から六本木に引っ越した。住民らが告訴・告発して3か月後のことだ。
都合の悪い書類はすべてシュレッダー処分したに違いない。これでは検察庁が保安院の証拠隠しに手を貸したようなものだ。
「検察は何をしてるんだ?」。業を煮やした福島の告訴団や市民たちがきょう、検察庁を大挙して訪れ、「しっかり捜査するよう」要請した。
バス3台を仕立てた福島住民、全国各地に避難している福島県出身者、告訴・告発に加わった市民ら約700人で検察庁前の歩道は埋め尽くされた。
『検察庁は起訴しろ、東電は自首しろ』。参加者たちが手にしたシングルイシューのプラカード数百枚が霞が関にひるがえる。被曝し住み慣れた土地を追われた人々の怒気が検察庁前に充満した。
大熊町で有機農業を営んでいた渡部隆繁さん(63歳)は、事故後、会津若松市に避難した。
「東電は国の責任といい、国は東電の責任という。捜査されていないからそんなことが言えるんだ。我々は土地を追われて何もない。分かりますか?この気持ちが。強制捜査をして下さい。東電に罪を認めさせて下さい」。鬼気迫る渡部さんの訴えは検察庁のビルに突き刺さるように響いた。
福島市の佐々木慶子さん(元教師)も怒りをぶつけた。「東京地検の皆さん、私たちの必死の叫びが届きましたか? 私たち国民のために仕事をしているんじゃないんですか? どうして大きな罪を犯した東電に捜査が入らないんですか?」。
怒りは福島だけにとどまらない。「真っ当に捜査して東電と政府を告訴すべし」、全国から集まった4万256筆の署名を、佐藤和由副団長と河合弘之主任弁護士が検察庁舎に入り提出した。
検察庁へのアピールを終えた一行は、“主犯格”である東電に移動した。東電側は広報部原子力センターの會田満男所長らが対応した。場違いなほどパリッとした高級スーツが、東電のありようを象徴していた。
前出の渡部さんが激しく迫った。「会長、社長を出せ。私たちはあなたたちに強制移住させられたんだ。土地全部を汚染された。今すぐ返して下さい。それなのにあなたたちは責任を取らないんですか? 自首して下さい」。
佐々木慶子さんが要請文を読み上げた。「貴社は自ら進んで真実を明らかにし、その罪を認め、刑罰に服するように求めます」。
「巨悪を撃つ」はずの検察が仕事をしないため、巨悪はのさばる。住民が検察の尻をたたき、無理と知りながら巨悪に自首を迫る。
巨悪にメスが入らなければ、もはや法律をたのみとすることは不可能となる。日本は法治国家でなくなるのだろうか。
《文・田中龍作 / 諏訪都》