「当事者意識がない」とは、こういう組織のことを言うのだろう。活断層をめぐる評価報告書案を原子力規制庁の審議官が日本原電に手渡していた問題で、同庁はきょう午前、日本原電から1時間にわたってヒアリングを行った。
午後記者会見が開かれ、記者団から「ヒアリングの内容」について質問されたが、規制庁の森本次長は「把握していない」と答えるのだった(知っているがマスコミには言えないこともある)。
1月22日、名雪哲夫審議官(1日付けで更迭)が資料を手渡した際、日本原電側のメンバーは市村泰規常務と「お付き2人」の計3人だった。しかしきょうヒアリングしたのは「お付き2人」だ。
電力会社との力関係からして規制庁は常務を呼びつけることができなかったのだろう。筆者は「規制庁の方が地位が低く甘く見られていることになりはしないか?」と質問した。
森本次長は「そんなことはない」と否定したが、強がりにしか聞こえなかった。
名雪元審議官は日本原電側と12月から8回も会っているのだが、規制庁の面談記録の欄に公表されているのは1月22日の「一回こっきり」だ。残りの7回はどうしたのだろうか?
森本次長は「(規制庁の)内規では儀礼の範囲であるため記録に残らない」とする趣旨の説明をした。
この日の午前、野党議員や環境団体が参院会館に規制庁総務課の金指壽(かなさし・ひさし)課長補佐を呼んで追及した―
「会ったのは(報道されているように)8回だけか?」「日本原電側から資料提供を強く要求したのか?」…といった質問に金指課長補佐も「儀礼の範囲なので記録に残らない」を繰り返した。壊れた蓄音機(CDプレーヤー)のように。
名雪元審議官が手渡した評価報告書案は、日本原電の原子力発電所「敦賀」の下にある地層について議論した内容が書かれている。草案なので電力会社は政治工作でいくらでも都合のいいように書き換えることができる。
原子力規制委員会は「活断層」であるとの判断を固めており、日本原電はこれをひっくり返したかったのだろう。草案はノドから手が出るほど欲しかったはずだ。このために日本原電は名雪審議官(当時)と8回も面会したのである。
「儀礼は隠れ蓑に使われているのではないか?」筆者は質問した。
森本次長は「再発防止策をどうするか、検討中」とかわした。この日の記者会見で次長は「再発防止」を耳にタコができるほど連呼した。
前出の金指課長補佐は肝心要の名雪審議官と日本原電側のやりとりについて詳細を尋ねても「記録に残っていないので把握できていない」とする趣旨の答えを繰り返した。
事実を明らかにしようという意欲は、規制庁からは全く伝わってこない。真相究明なくして再発防止ができるのだろうか。「福島の事故の教訓」は規制庁にはないようだ。