50基余りもの原発を作った自民党の政権復帰に向けて、電力会社の接待と広告漬けに浸っていたマスコミの世論誘導が進む。原発再稼働に向けた政治環境が整いつつあるなか、首相官邸前で金曜恒例の原発再稼働反対集会が開かれた。
晩秋の夜空には間もなく満月になる月が浮かぶ。10万人を超す人々が全国から駆け付けていた夏のむせ返るような熱気はない。だが、たとえ一人になっても原発が止まるまで抗議を続ける信念の持ち主たちで、26日夕、官邸前の歩道は埋まった。
「参加人数は減っているが、(原発再稼働に反対する人々は)全国に散らばっているから悲観していない。長期戦だから地道にやるしかない」。ほとんど毎回参加している横浜市の女性(60代・年金生活者)は淡々と語った。
時節柄、ハロウィンの被り物をつけた男性も登場した。アニメ作家のゲンパチおじさんだ。おじさんは地震津波に襲われた原発が電源喪失事故を起こすアニメーションを「3・11」前から製作し、世に原発の危険性を訴えていた。
「きょうはゲンパチおじさんが死者になり代わって、原発はもう死んでるんだぞと言いに来た」。おじさんの目はいつもはやさしいのだが、カボチャのくり抜いた部分から見える目は怒っていた。
国会議事堂前に行くと、キャンドルをかざした女性たちの姿があった。市川市から連れだって訪れた彼女らは、2ヵ月に1度地元で放射能を測定している。
グループの中には福島県二本松市出身の女性(75歳)がいた。「毎年、孫を連れて遊びに帰っていたのにもう帰れない。毎年送ってもらっていた米ももう食べられない。怒りが収まらない。事故後、孫の顔が見れなかったよ。こんな世の中にしちゃって」。
女性は東電幹部や政府の役人を業務上過失致死傷などで刑事告訴した住民訴訟に加わっている。キャンドルの灯りにうっすらと照らし出される彼女の表情は、ろうそくが息をする度に、怖くも優しくもなった。
官邸前に足を運び続けて半年以上になるが、原発事故によって生活を奪われた人々の悲劇は、百人百話であることに毎回驚く。
《文・田中龍作 / 諏訪都》