福島原発事故の放射能が付着した瓦礫が、関門海峡を越えて九州に持ち込まれる。宮城県石巻市から木屑が中心の可燃物80トンが22日、北九州市に到着する。同市では翌23日から試験焼却する予定だ。
環境省は「バグフィルターによって放射性物質は99%除去される」との見解を示している。だが瓦礫を焼却している静岡県島田市で計測したところ60~70%しか除去できないことが明らかになった。細野豪志環境相のお膝元でさえ、このありさまだ。国民が不安に陥らないはずがない。
西日本に瓦礫が搬入されるのはこれが初めてとなる。到着前日にあたる21日、市民たちが動いた。「健康に関わる重大な問題であるにもかかわらず、十分な説明がないのは納得できない」として、大挙、北九州市役所に詰めかけたのである。
福岡県内だけではない。隣県の山口県や大分県などから足を運んだ市民が目立った。宇部市からはバスをチャーターして30人が訪れた。駆けつけた市民は総勢400人近くにのぼった。
西日本の玄関にあたる北九州市で「放射性瓦礫」が入ってくるのを堰止めたい、とする危機感の表れだ。北九州市が瓦礫を受け入れてしまえば、他県の自治体も「右へならえ」する恐れがある。
市役所訪問に先立ち市民討論会が開かれた。宇部市代表の安藤公門さんによれば、偏西風が北九州から山口県に向かって吹いている。「宇部は(北九州の)焼却場から目と鼻の先だ」と大きな手製の地図を見せながら説明した。
「西日本を安全な食糧基地として確保しておきたい」。安藤さんは力を込めた。
焼却灰が海に降り注げば下関名物の「ふぐ」も被害を受ける。九州の自治体が放射性がれきを受け入れればどうなるか。福岡市代表の原豊典さんは「九州全域の農産品が風評被害に遭う」と唇を噛みしめた。
「焼いたらいけん」。和紙に墨で書いたメッセージを紋付袴に張り付けているのは、大分県豊後大野市から来た男性だ。「大分県も知事や県議会が受け入れる方向じゃけんね」。男性は表情を厳しくさせた。
放射能に県境がないように、受け入れ自治体が次から次へと広がっていくことを市民は恐れ、怒っているようだった。
~つづく~
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