「子どもがインフルエンザにかかったので、今週は行けない。誰かお願いします」。埼玉の主婦ハルオさんが21日夜、Tweetしたのを見て、翌日さっそく立ちあがった青年がいた。ハンドルネーム、「トラウマ・スケープゴート」(本名:加藤春臣・所沢市在住・印刷工場労働者=26歳)さんだ。
「以前から一度立ちたかった」と話す加藤さん。「『政府の原発事故対応のまずさ』と『事実を報道しないマスコミ』を見て国民一人ひとりが立ち上がらなくては、と思った」と語った。
加藤さんは東電前に着くと、フェルトペンでスケッチブックに『日本を安心して子供を作れる国に』と書いた。前から決めていた文言なのだろう。一気に書き抜いた。
「放射能の影響を考えて子供を作るのを躊躇したりするような風潮がある。そうしないためにも原発はちゃんと停めなければならない。さもなければ、日本はますます少子化が進んでダメな国になってしまう」。加藤さんは思い詰めたように話す。
目の前をランチに向かう東電社員が通り過ぎる。ほとんどは見向きもしない。加藤さんは視線を合わせてくれる東電社員に「こんにちは」と声を掛けた。
「東電社員に対する怒りはないのか?」
「正直、ほとんどない。社員の意識を少しずつでも変えてゆきたいと思って、ここに立っている」。加藤青年はどこまでももの静かだった。
東電警備にあたる制服警察官がやって来た。「自分は第9機動隊のイナムラと申しますが、お名前は?」などと職務質問した。加藤さんが名乗ると「風邪ひかないように気を付けて下さい」と言って去って行った。
1時間ほどのプチデモを終え東電前を後にする時、別の制服警察官が「ご苦労さまです」と会釈した。かつてのように私服の公安刑事が5人も10人も貼りついたりはしない。
プチデモは誰でも気軽に意志表示できる場となりつつある。警察とぶつかる必要もない。東電への怒りはあってもなくてもいい。「電気料金の値上げは許さない」で十分だ。
日本社会を支配してきた「長いものには巻かれろ」は、原発事故を機に変わりつつある。