日章旗と「原発いらない」のプラカードが共に翻った。31日、民族派ナショナリストの呼びかけによる脱原発デモが都内で行われ、市民団体や環境団体のメンバーも参加した(呼びかけ人:鈴木邦男・一水会顧問など)。
「脱原発を訴える人たちの裾野が広がってきた」と筆者はこれまで幾度も指摘してきた。人気俳優やアイドルがテレビ界のタブーを冒してまで脱原発の集会・デモに参加するようになった。「デモは初めて」という年配者が目立つ。今や脱原発運動を支えているのは子供を守りたい一心の母親たちだ。
政財界やマスコミなどは「原発に反対するのは左翼など一部の偏った人たち」とのレッテルを貼ってきたが、それも過去のものとなった。
民族派の代表的存在である鈴木邦男・一水会顧問は今回のデモの意義を次のように語る。「右翼陣営の中には左翼がやってるから『脱原発』には反対だという声がある。だが、山河を守るという民族派の原点に立ち帰ったのがきょうのデモだ」。
一水会はチェルノブイリ原発事故(1986年)後、高木仁三郎氏(原子力資料情報室代表=故人)を招いて勉強会を開くなどして原発問題に取り組んできた。放射能で郷土が汚染され、国民の健康は蝕まれる。原発事故は民族派として看過できない問題である。
呼びかけ人の一人、針谷大輔・統一戦線義勇軍議長は原発事故を民族の危急存亡に関わるものと考える。「反原発はこれまで左翼の運動と捉えられてきた。非常時にイデオロギーは必要ない。被災地で最も必要とされるガソリンを持ってきた人に『あなたは右翼ですか?左翼ですか?』とは聞かない」。
郷土をズタズタにされた宮城県出身の男性(都内・会社員=30才)もデモに参加した。「一週間ほど故郷に帰ってきた。実家は稲作農家だが、風評被害で売れないだろうと思うと悔しかった。それから反原発に向かうようになった」。
デモ隊は東京タワー真下の芝公園を出発した。日章旗と鈴木邦男氏らが持つ横断幕が先頭だ。「友よ、山河を滅ぼすなかれ」「原発労働者の権利を守れ」……林立するノボリとひしめくプラカードは、デモが従来のイデオロギーの垣根を飛び越えたことを雄弁に語っている。
霞ケ関の経産省前に差しかかるとデモ隊のシュプレヒコールは一段と激しさを増した。「経産省・原子力保安院は人の心を取り戻し、全ての情報を公開せよ」・・・。
警察に促されて渋々進んだデモ隊は経産省を後にすると内幸町の東京電力前に達した。「責任の所在なき東電への税金投入反対」「我々は東電のために税金を払ってるんじゃないぞ」「東電は誰か出てきなさい」…。デモ隊の訴えは殺気さえ帯びた。
水と大地あってこその生活、郷土であり国家である。それが脅かされる時、人々はイデオロギーを超えて大同団結する。記者クラブメディアによる情報操作も警察の取締まりも効果を失う。原発推進派が最も避けたい流れができつつあるようだ。