国際社会の批判を浴びた東京電力の事故隠し(2002年発覚)で引責辞任した南直哉(みなみ・のぶや)社長が、その後フジテレビの監査役に“天下り”している。ネットサーファーの間では周知の事実だが、国民の多くは知らない。
筆者は昨日(10日)、原発事故対策統合本部の合同記者会見でこの問題について細野豪志・同本部事務局長に質問した。
細野事務局長(首相補佐官)は「南社長がフジテレビの監査役になっていたとは知らなかった」と答えた。あらゆる情報が集まる首相官邸の住人が知らないのだから、多くの国民が知らないのは無理もない。
電力会社の社長が民放テレビ局の役員として迎え入れられても違法ではない。細野氏は「私の立場でどうこう言える問題ではない」とかわした。
【情報隠ぺいの張本人が報道機関に“天下り”】
2002年に発覚した東電のトラブル隠しは今回の事故の遠因と言っても差支えない。福島と柏崎刈羽の原子力発電所でシュラウド(炉心隔壁)と再循環系配管に「ひび割れ」があったにも関わらず、東京電力は原子力安全保安院に「異常なし」と報告したのである。
燃料棒を取り囲んで支えるシュラウドと冷却水を循環させる配管の「ひび割れ」は炉心溶融などの大事故に直結するものだ。
重大なトラブルである「ひび割れ」は、点検にあたったGEの下請け作業員が通産省(現・経産省)に2度にわたって内部告発し、やっと明らかになった。保安院と東電が重い腰を上げるまでには1度目の内部告発から2年近くが過ぎていた。
南社長(当時)が「ひび割れ」「異常なしの虚偽報告」「2度の内部告発」を知らないはずはない。知らなかったと仮定しても社長としての責任は免れない。
悪質なトラブル隠しを行った東電を、政府は厳重注意だけに留めた。この時に当たり前にマスコミが批判していれば、東電の安全管理はこれほどまでズサンになっていなかったであろう。
だが多額の広告費の前にマスコミ(特に民放テレビ)は真相を追及することもなかった。
東京電力はその後幾度も事故やトラブルを起こしたにも関わらず、データ改ざんをはじめ情報隠ぺいを続けてきた。マスコミは相も変わらずロクに批判しなかった。そして2011年3月、福島第一原発の爆発事故となるのである。
事故隠しの元祖・張本人とも言える南直哉社長が、社会の木鐸を自任する報道機関の監査役に“天下る”――世間の常識とはあまりに掛け離れていないだろうか。(フジテレビを報道機関と呼んでよいのかは議論の分かれるところだが)
フジテレビが主催する「地球環境大賞」を東京電力は度々受賞してきた。多額の広告費を出してもらった見返りだ。南監査役の意向も反映されているのだろう。
このカラクリを知らず「東京電力はエコでクリーン」と頭に刷り込まれてきた国民こそいい迷惑である。
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田中龍作の取材は読者に支えられています。