26年間に渡って小国スリランカを苛んできた内戦が終結してほぼ1ヶ月が経つ。反政府武装勢力のLTTE(タミル・イーラム解放の虎)により「人間の楯」とされていた25万~30万人のタミル人は、政府が設けた避難民キャンプで過酷な日々を送る。
LTTEの再結成を懸念する政府が、タミル人たちの帰還を認めないからである。現地からの報道によれば、LTTEとの関わりを疑われた男性たちや少年兵と見られた子供たちが姿を消している、という。政府軍の手によって拷問されたあげく抹殺されているとの見方が有力だ。
事実上の首都コロンボを空爆され最高幹部が自爆テロで殺害されるなど政府軍は、LTTEのゲリラ戦術に手痛い目に遭ってきた。「落ち武者狩り」を徹底する事情だろう。海上でもピリピリとした警戒が続いている。
スリランカ海軍が4日、北部の公海上でシリア船籍の輸送船を拿捕する事件があった。船はイギリス・イプスウィッチを出港、フランス・マルセイユを経てスリランカに向かっていた。
884トンの積荷の中味について政府軍は明らかにしていない。荷主である在欧タミル人慈善団体は「食料や医薬品。テロとは関係ない」と断言する。政府軍は「LTTEの武器や兵員輸送に使う船」と見る。
火力・兵力で圧倒的に劣るLTTEを支援してきたのは、欧州やインド・タミルナド州をはじめとする在外タミル人たちだった。件の船がシリア船籍だったこともあり、政府軍はテロと関わりがあるものと見て拿捕した。
海からLTTEに軍事物資や資金が渡ることにに、政府軍は神経を尖らせてきた。とばっちりを食らったのがタミル人漁師たちだった。操業範囲を海岸からわずか1キロだけと制限されたのだった。船もエンジン付は禁止された。漁師たちが使っているのはイカダのような原始的な小舟だ。
海軍基地の建設で先祖代々の漁村から別の浜辺に追いやられた漁師たちを、筆者は05年に訪ねた。スリランカ最北端のジャフナ県だ。沖合い1キロの地点にブイが浮かべられていて、それ以上沖に出た漁師は政府軍からメッタ打ちにされる。殺された者も多数いる。漁師が外国船とLTTEの中継ぎをするものと政府は見ていたのだ。
沖に出られなければ当然収穫量は減る。「1日の平均収入500ルピー(約500円)だったのが、50~100ルピー(50~100円)に減った」。ある漁師は嘆いた。
政府軍の大攻勢でLTTEは壊滅した。カリスマ的指導者のプラバカラン議長の死も確認された。再結成など夢のまた夢である。政府軍が出漁制限を解き、タミル人漁師たちに海を返す日が一日も早く来ることを願ってやまない。