スリランカの反政府武装勢力LTTE(タミル・イーラム解放の虎。通称タミル・タイガー)寄りの「TamilNet」が24日、LTTE最高指導者のプラバカラン議長が死亡したことを認めた。
政府軍が同議長の死亡を映像付きで伝えて6日後のことである。タミル人たちの間で神格化されていた同議長の死を易々と受け入れるわけにはいかなかったのだろう。
タミル人地域の民家や商店などで議長のポスターをよく見かけた。映画のポスター位のサイズから等身大まで大小さまざまだった。至る所に金日成の肖像画が飾られている北朝鮮と似ているではないか、と思ったものだ。
筆者はLTTEの女性兵士にインタビューしたが、二言目には「我々の優れた指導者が…」を繰り返した。これまた「偉大なる将軍様」を枕言葉に使う北朝鮮に似ていた。
LTTEの得意戦術である自爆テロを実行するのは「ブラック・タイガー」という専門の部隊だ。自爆テロ戦士は、攻撃対象と実行日が決まったらプラバカラン議長に「お目通り」を許される、という。
女性兵士は「(議長から自爆テロを命じられたら)喜んで自爆テロをかける。相手に与える損害は大きい方がいい」と勇ましく答えた。
LTTEの兵士は青酸カリの入ったペンダントを首にぶら下げていた。政府軍に拘束されれば、容赦のない拷問にかけられる。拷問で軍事機密を漏らさないようにするため、拘束されたら直ちに服毒自殺するのである。
部下には自爆テロと服毒自殺を奨励していたプラバカラン議長だったが、自らは最後まで生き延びようとした。政府軍によるLTTE掃討作戦が最終局面を迎えていた17日、追い詰められた議長は車で政府軍の包囲網を突破しようとした。政府軍の一斉射撃は車を貫通し、議長に命中。“タミルの神様”はあっけなく54年の生涯を閉じた。
26年間に渡ってゲリラ戦を指揮してきた“神様”の最後の戦術は、同じタミル人を「人間の楯」に取ることだった。火力・兵力に勝る政府軍の前に敗退を続けるLTTEは、20万人を超すタミル人を連行した。脱出を企てる者は射殺した。
ばかりか、LTTEは「人間の楯」に砲弾を浴びせた。「政府軍の非道」と国際世論を煽るのが狙いだったのだろう。スリランカ北部のマニク・ファーム避難民キャンプに収容されているタミル人女性は「政府軍とLTTEの双方から砲撃があった」と証言した。
国連のパン・ギムン事務総長が23日、同避難民キャンプを視察した。事務総長は「これまで世界中で似たような現場を見てきたが、これほどまでの惨状は見たことがない。地獄の様相だ」と話した。
内戦による死者は7万人余り。国内外の避難民は127万人。タミル民族の自決を掲げて政府軍と熾烈な戦闘を繰り広げたLTTEは、自らと同じタミル人を地獄に突き落としたのである。独裁者はいつの世も身勝手で無責任だ。