イスラエル軍は「第2次レバノン戦争」(2006年夏)で手痛い打撃を受けるまで不敗神話を誇っていた。周りを取り囲むアラブ諸国との4次(※)にわたる中東戦争に4戦全勝していたのである。
故イツハク・ラビン首相のように輝かしい軍歴を持つ人物が、国民的英雄となり政治家としての頂点を極める。軍の士気の高さはつとに知られるところだ。
だが強さの一方で、「パレスチナ攻撃はやり過ぎ」との批判もつきまとう。イスラエル軍はなぜ戦うのかを軍広報官のベンヤミン・ラトゥランド大尉に聞いた。
Q:イスラエル軍の士気の高さはどこからくるのか?
A:脅威にさらされている国民と国土を守るために戦っている。遠く離れたイラクの地で戦っている米軍とは違う。今回の戦闘(ガザ侵攻)も第2次レバノン戦争(2006年)も予備役を召集したところ100%応招した。
Q:イスラエル軍が破壊したガザの現場を見てきた。ハマスの施設を集中的に攻撃したようだが?
A:先ず空爆しその後陸上部隊が攻撃した。空爆だけでは壊滅するのが難しいからだ。このため非戦闘員が住んでいるエリアがターゲットになりがちだ。
Q:無数のトンネルが20~30メートルの深さで掘られているが、破壊できるか?
A:もし仮に地下深くにあっても我々はその場所を知ってるので、破壊することは可能だ。だが100%すべてではない。
Q:通常の爆弾では地下30メートルの施設、トンネルを破壊できない。バンカーバスターを使用したのか?
A:イスラエル軍は政策として爆破したターゲットや使用した爆弾の種類について他言しない。ノーコメント。ディティールは言えない。しかしトンネルがどこにあるかを知っており、破壊することができる。
(地下30メートルもの深さにある施設を破壊できる爆弾はバンカーバスターしかない。「破壊できる」と答えたことは、使用を暗に認めたことになる。)
Q:1月4日、(ガザ市)ザイトゥーン地区で、イスラエル軍が住民100人を一箇所に集め、翌5日、爆撃したというのは事実か?
A:イスラエル軍は経験に学ぶ軍隊だ。作戦をした後は規模の大小を問わず、いつでもプロセスについて何があったか調査する。上は参謀総長から下は現場の指揮官、部隊長に至るまで広範囲に何があったのか調査する。
この(ザイトゥーン地区での)オペレーションで失敗が二つあった。一つはある戦術を遂行することだったが、機能しなかった。次回はこの経験に学ばなければならない。二つ目は、作戦の結果、人道上明白な疑念が数多く出てきた。調査しているところだ。真相を調べている。イスラエル軍はポリシーとして住民を一箇所に集めて爆撃するようなことはしない。しかし軍としては現在全容を調査中なので、最終結果が出たらお知らせする
Q:基本的な質問で恐縮ですが、なぜガザに侵攻したのですか?
A:ガザからロケット弾が撃ち込まれ、イスラエル市民が被災するからだ。ここ8年間で1万発も着弾している。信じられない数字だ。2008年は、5ヶ月の停戦期間があったにもかかわらず、3千発以上が(イスラエル領土に)落ちてきた。かつて我々が経験したこともないほどの数だった。あげくに彼らは停戦期間の延長を拒否した。不幸にもハマスが06年、総選挙に勝ち、翌07年にガザをコントロールするようになってから荒れてきた。ファタハの支持者が多く処刑された。この間、ハマスは軍事施設をガザに建設する好機を得た。(我々にとってガザ侵攻以外)他に選択肢はなかった。世界のどこに自国民が砲撃されていながら我慢している政府があるか。
Q:エレツ検問所の上空に浮いている飛行船は警戒システムのひとつですか?
A:我々は全範囲にわたる情報収集システムを持っている。飛行船もそのひとつ。非常に高度なシステムだ。(ガザ国境にあたる)南部では多くのイスラエル国民が殺されてきたので、巨費を投じて警戒システムを設けた。1万5千人の児童・生徒がシェルターに避難する訓練を受けている。先週末・土曜日に学校と幼稚園計4箇所にロケット弾が落ちた(安息日の「シャバット」だったので死傷者はいなかった)。状況は悪化している。
Q:ハマスのロケット弾の射程は40キロということになっているが、60キロ以上飛ばす能力を持っているとの説もある。それはどう見ていますか?
A:確かなことは知らない。だが、ロケットの性能はアップデートされている。我々が心配するのはイランのヒズボラから(部品や技術を)供給されていることだ。8年前は射程4キロだったものがコンスタントに距離を伸ばし、今では40キロだ。もしハマスのロケットが60~70キロの飛距離を持つようなことになれば、(経済中心地の)テルアビブに撃ち込まれることになる。
Q:ハマスは核開発能力を持っていると思いますか?
A:核兵器のデバイスは持っていない、と考えている。しかしテロリストの手に渡ったら、怖い非通常兵器がある。それは化学兵器、生物兵器、「汚い爆弾」だ。ハマスはこれらの種の兵器を持ちだがっているようだ。イスラエルは定期的に対化学兵器、対生物兵器の演習を行っている。
Q:最後に、イスラエル軍の将校になって良かったと思いますか?
A:大変名誉なことだ。我々の国が大きな軍隊を持つ必要がなくなり、多くの兵士が制服を脱ぎシビリアンとなる日が来ることを夢見ている。(だが)我々は家族や友人たちを保護し、イスラエル国家の存在を守る重要な任務を帯びている。
(※筆者注)
「第5次中東戦争」という珍説がある。1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻を指しているようだ。これはアラファト議長率いるPLO掃討のための軍事作戦であって、イスラエル対アラブ諸国という「中東戦争」の概念から外れる。従って中東戦争は現在のところ4次まで。