【ガザ点描】今なお衰えぬアラファト人気

アラファト議長壁画(右端。ガザ市内でいずれも筆者撮影)

アラファト議長壁画(右端。ガザ市内でいずれも筆者撮影)

 
 ガザを歩くと至る所にPLOアラファト議長(2004年没)の写真や肖像画を見かける。街頭を歩き公的機関のオフィスに行くと議長の「笑顔」に会える。

 アラファト議長には3人の友人がいた。イラクのサダム・フセイン大統領、ブトロス・ガリ国連事務総長、キューバのカストロ首相(肩書きはいずれも当時)だ。「類は友を呼ぶ」。ガリ国連事務総長をのぞく2人は議長同様独裁者だ。

 なかでもサダム・フセインとの交友は後にパレスチナを困窮させることになった。議長は湾岸戦争(1991年)でサダムに組したことからアラブ諸国の猛反発をかった。パレスチナ出稼ぎ労働者を国外退去させる国も相次いだ。

 オイルマネーで儲けていたパレスチナ人実業家も同様に退去させられるなどしたため、「仕送り」は激減したのである。

 中東に精通したジャーナリストは大概「パレスチナ問題とはアラファトの問題」という。困窮するパレスチナの財政で国際社会からの援助金は唯一と言ってよいほどの救いだ。

 それを一手に握り、スイスに秘密口座を持つ。貧困にあえぐパレスチナの民を尻目に夫人はパリで豪奢な生活を楽しんだ。1日の生活費が1万ドルを超える、とも言われた。

 アラファト議長率いるファタハの幹部はホテルと見まがうような豪邸に住み、ドイツ製高級車を乗り回す。ヨルダン川西岸の高台にホテルのようにお洒落な建物を2~3軒見かけた。タクシー運転手は「ファタハ幹部が住んでいる」と教えてくれた。

 当然、人々の支持は面倒見が良い「ハマス」に集まる。議長の求心力は低下していった。第2次インティファーダ(2000年)が発生しイスラエル領土内で自爆テロが頻発したが、アラファト議長には抑える力は最早なかった。

 とはいえ、対イスラエル武装闘争でパレスチナ問題の存在を世界に知らしめた議長の業績は大きい。今だにパレスチナの人々が「アラファトは英雄」と言って憚らないゆえんでもある。

 ガザのハマス党員も「アラファトは素晴らしい」と言う。あるタクシー運転手に「アラファトの問題がパレスチナ問題だったのではないか?」と聞くと「アラファトが問題を作り出していたんだ」と笑いながら答えた。「アラファトは英雄だ」と付け加えることも忘れなかった。

 パレスチナの英雄・アラファト議長だが、1982年にレバノンを追われる際イスラエル軍の「ライフル・エリア」に入っていた。射殺を止めさせたのはアメリカだった。シャロン国防相(当時、後に首相)の側近から筆者が直接聞いた話だ。

アラファト議長公邸。議長が愛した窓辺は奇跡的に残っていた

アラファト議長公邸。議長が愛した窓辺は奇跡的に残っていた

 東地中海沿いの小高い丘の上にあるアラファト議長公邸跡を訪れた。波光が敷地を照らすのか、眩しい。イスラエル軍の爆撃を浴び、白亜の殿堂は面影もない。議長は窓辺からパレスチナの旗を見るのがこよなく好きだったという。

 その窓は奇跡的にも破壊を免れていた(写真)。死地を幾度も脱出してきたアラファト議長の生涯を象徴しているかのようだった。

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