文・写真 山中千鶴 / ライター
浜松市北区の山あいに位置する鎮玉地区は、どこにでも存在する農村となんら変わりない。山があり、田んぼがあり、畑がある。
杉の木が高く育った山では間伐が進まず、田畑の多くは耕作放棄地となっている。
若者は職や暮らしの利便さを求めて都市部に移住し、地元人口の多くを占めるのは高齢者だ。今後10年間で、限界集落になるという予測もある。
ここで何とか踏みとどまらなければ地域の将来はない ― 住民は、いくつかのユニークな取り組みを始めた。
その1つが、地元の主婦によるボランティア団体「ほたるの会」だ。
約20人のメンバーからなる「ほたるの会」は、発足して5年になる。毎年、ホタル観賞会やウォークラリー、フリーマーケットなどを開催してきた。
手弁当で開催するイベントだが、決して小規模なものではない。昨年開催したホタル観賞会では、小さな山里に700人近い参加者を呼び込んだ。
700人規模のイベントを手掛けるのは、大変な労力だ。会への参加に際し「家庭を最優先とすること」と配偶者に釘を刺されたメンバーもいたという。
「そりゃあ大変ですよ」と同会代表の岡部裕子さんは運営の苦労を語る。
「私たちももう若くはないし、できれば自分のことだけしていたいけど、次に引き継いでくれる人が見つかるまではねぇ」。
「ほたるの会」のメンバーを動かすのは、ひとえに「この地域を良くしたい」という思いだ。
立地適正化計画(※)による居住誘導区域から外れ、公共交通の便が減らされる・・・あからさまに「切り捨て」を実感するようになっても、岡部さんらは怒りをパワーに変えて奮闘する。
「私たちがここで声をあげて活動していれば、少なくとも“物言う住民”がいることは示せるでしょ。こういう時こそ、頑張らないと」。
「ほたるの会」が今後狙うのは、地元特産品の創出である。
先月は動植物の専門家を招いて学習会を行った。鎮玉地区のあちこちで見かける薬草を活用しようというのだ。
自分たちの生活の向上はもとより、特産品即売所で現金を稼ぐことも視野に入れているのである。
「ここにはまだ、目の前の草が何の薬草なのかわかるお年寄りがたくさんいます。そういう方に収穫してもらい、買い上げるシステムができると良いですね」。鎮玉の植物を調査した桑鶴博宣さん(環境カウンセラー)は語る。
お年寄りの満足度を上げ、暮らしやすい地域にしようというアイディアマンの桑鶴さんの話に「ほたるの会」のメンバーは真剣な眼差しで頷いていた。
「ないものを数えるよりも、あるものを活用して豊かに暮らしていこう」
熱い主婦たちの新しい取り組みは、年内を目標に形になる予定だ。
~つづく~
(※)立地適正化計画
少子化・高齢化や市街地中心部の空洞化などを理由に打ち出された国土交通省の「コンパクトシティ化」政策に基づき、地方都市の中心部に主要機能と住居を集中させる計画。
民間と自治体との協業、建築許可の規制緩和、所得控除や軽減税率といった税制面での優遇、再開発への公費助成などにより集中化を促進する一方、「誘導地域」外では住宅建設をも届出制・許可制にすることも盛り込まれた。
国が主導する緩やかな居住制限政策ともいえる。
すでに沖縄県を除く全国46都道府県、276都市で具体的な取組みが開始されている。