今度は「国立劇場」 建て替えという邪悪な目論見

見るからに重厚な建造物だ。傷んでいるようすは欠片もなかった。=22日、都内 撮影:田中龍作=

この国の政治家は環境破壊、景観破壊のテロリストなのか。

旧国立競技場、秩父宮ラグビー場のように建て替える必要がない施設を、老朽化を口実に建て替える。莫大で無駄な費用がかかるばかりか、周囲の環境と景観が破壊される。神宮外苑が典型例だ。

テロリストたちは環境、景観に加えて伝統文化まで破壊しようとしている。国立劇場の建て替えである。

奈良東大寺の正倉院を模した落ち着いたデザインの国立劇場。日本の伝統芸能を披露する専用施設にふさわしい。1966年竣工。躯体は傷んでおらず、改修で十分対応できる。

にもかかわらず、国はホテルや商業施設を入れた高層ビルに建て替える方針だ。見切り発車で建て替えるべく昨年10月に休館(事実上の閉館)した。

建て替えはPFI方式で民間の資金を募るはずだったが、2度にわたる入札は1社も応じなかった。円安による資材高騰などが原因だった。

政治家たちの邪悪な目論見は宙に浮いたのである。

2023年10月末からの休館(事実上の閉館)を知らせる貼り紙。=22日、国立劇場 撮影:田中龍作=

東京にあっては珍しく空が広い皇居周辺の景観に配慮し、現在の国立劇場は周りの木立にすっぽりと隠れるように慎み深く存在している。それは伝統芸能の重みさえ感じさせる。

国立劇場は商業ベースに乗りにくい歌舞伎の通し狂言、復刻版、新作などを積極的に上演して来た。

それだけではなく、雅楽、声明(しょうみょう)、舞踊など頻繁にふれることが難しいジャンルをも扱う。小劇場では定期的に文楽が見られる劇場として、また演芸場では落語や浪曲を始めとする寄席演芸が毎月多彩なプログラムを提供してきた。

こうした伝統文化の発表の場が、再開の目処もないまま失われかねない危機に瀕している。演者らを置き去りにしたまま建て替え問題が放置されているのだ。

国立劇場の外観をチェックする市民たち。=22日、都内 撮影:田中龍作=

 ~終わり~

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