国の形が変わる日の前夜、永田町では翼賛体制に向かう勢力と平和を守ろうとする勢力が交錯した。
30日午後2時、衆院会館。公明党執行部は党所属の国会議員を集め「集団的自衛権の行使容認」に向けて意見集約した。
筆者は会合が持たれている公明党政務調査会会議室に近づくこともできないため、エレベータホールで退出してくる議員を待ち、ぶら下がった。
議員たちの話を総合すると、井上義久幹事長が「政治決断する時期に来ている。もう時間がない。我々(執行部)に一任してほしい」とまとめた。
若手議員を中心に反対論が出た。「武力行使はダメだ」「後戻りができなくなる」「(政府案は)不透明な所がある」・・・
だが執行部は「安倍さんが急いでいるんだ」などとして反対論を押し切った。
連立与党に留まりたい公明党が党是ともいえる「平和の党」の理念を正式に捨てた瞬間だった。公明党は「戦争遂行政権」の補完勢力に転じたのである。時計の針は午後5時にさしかかっていた。
この頃、官邸前には平和を求める人々が集まり始めていた―
翌日の閣議決定を何とか阻止しようと全国各地から老若男女が集まった(呼びかけ:解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会/戦争をさせない1000人委員会)。
これまで官邸前の抗議集会に立ち会ってきたが、今回ほど殺気立つ人々を見たのは初めてだ。
福島市から今日のデモのために上京した30代の主婦は、頭に「怒」と書かれた大きなりんごの髪飾りをつけての参加だ。
「安倍政権は国民の声に耳を傾けてほしい。自分達が選ばれた代表だということを忘れているのではないか。前の大戦の反省を生かせていない。戦争を経験した人がまだ存命なのに許せない」と話す。
国会記者会館前に立つ黒いスーツに身を包んだ23歳の女子学生は就職活動中だ。就活の帰りにひとりで参加した。「解釈改憲してはいけない。大学には集団的自衛権の問題に関心を持つ人は少ない。日本が戦争する国になるのを止めたいと思って来た」。
時間が経つにつれ仕事を終えたサラリーマンらが続々と訪れ、官邸前周辺の歩道は参加者で一杯になった。ぎゅうぎゅう詰めだ。
「安倍は辞めろ」「ファシストうせろ」「憲法壊すな」…シュプレヒコールが絶え間なく響いた。
デモ隊の前進圧力で道路は左右一車線ずつ塞がった。それでも警察隊が次々と増派されるため、規制線は決壊しなかった。
人々の声を封殺して戦争に道を開く安倍政権の姿勢を象徴しているようだった。