きょうの東京地方は先週末と同様 雪 となった。雪は野宿者にとって地獄だ。共同炊事はできなくなるし、炊き出しも届きにくくなる。共同炊事も炊き出しも週末に集中するので、余計につらい。向こう一週間、ひもじさ と寒さに耐えなければならない。
棲み家を失う恐怖を味わったことのある筆者にとって他人事とは思えない。国立競技場のある明治公園を訪ねた。国立競技場周辺には野宿者のビニールテントが点在する。だがオリンピックに伴う新国立競技場建設のため、野宿者は行政から立ち退きを ほのめか されている。
明治公園は銀世界となっていたが、青色のビニールテントは白い雪に溶け込んでいなかった。あたかも行政や社会が野宿者を疎外しているさまを象徴しているようでもあった。
あるテントに声を掛けた。「きのう区役所で『水掛けご飯』をワンパックもらったけど、きょうは雪で区役所まで行けない」。テントの主は答えた。
別のテントに声を掛けた。テント暮らしが10年になるという男性(60代)が “ 家主 ” だ。
「この雪じゃ、炊き出しも来ないし、共同炊事もないねえ」。男性はごく普通に語った。
男性は雪が降り始める前に、サンドイッチ店が廃棄したパンの切れ端を手に入れているのだ。パンの切れ端はビニール袋一杯あった。千切りキャベツも別の袋に詰まっていた。
夏に訪れた時と比べるとビニールテントの数は半分に減っていた。国立競技場北側で筆者が目視した限りテントは4張り。「みんな他の場所を見つけて移っちゃったよ。立ち退かされることは分かっているからねえ」。前出の男性は淋しさを隠せない様子だった。
ビニールテントを持たない野宿者は駅構内などで しのぐ。都営大江戸線「国立競技場駅」の地下通路に男女の野宿者がいた。
男性の方は「炊き出しも共同炊事もないからね」と言った。一瞬間を置き「地獄だよ」とつけ加えた。朝からの雪を恨んでいるようだった。
女性は「カンもできないしね」と腐れるように言葉を放った。カンとは空き缶拾いのことだ。野宿者の貴重な現金収入源である。
雪が降る前に食料を仕入れる手練れの野宿者はごくわずかだ。寒さと飢えはこのうえなく辛い。交通機関をマヒさせ経済活動に大きな支障をもたらす雪は、野宿者にとっても白い悪魔だ。