日本の原子力村が手ほどきしたのではないか。トルコ最北端まで来てそう思わせる施設に出くわした。『原子力情報センター』なる政府機関が、原発建設予定地のシノップにあり、「原発は安全で経済的」などとする神話を地元にまき散らしているのだ。
資源エネルギー庁が福島県双葉郡で「プルトニウム原発は安全です」と書いたビラを配布していたのと同じである。
トルコ政府がシノップに原子力発電所を建設すると明らかにしたのは2006年。地元はテレビ報道で知った。地元自治体のオスマン郡長は「政府は知らせてくれなかった。だから怒ってるんだ」と腹立たしそうに話した。
すぐに反対運動が起き、2万5千人が参加する「原発反対デモ」があった。政府は地元懐柔の前線基地として「原子力情報センター」をすぐに設ける。
主な活動は“布教”だ。原子力エンジニアらが地元公民館や学校に安全性の説明に行ったり、センターを訪ねてきた地元住民の質問に答えたりする。
配布物の中味が凄い。写真付きカラ―印刷の冊子が12冊、CDまで付いている。冊子に書かれている内容を読むと、腰を抜かすほど驚く―
・エネルギーを海外に依存せず発電コストを安定化できる。
・原発から出る放射能は自然界の放射能より少ない。
・核廃棄物は安全に保管できる。
・原発が事故を起こす可能性は、その他の技術製品と比べて少ない。
・温暖化なし
・酸性雨なし
・発電所のための広い土地は要らない。
ウソだらけだが、福島の事故前、日本でまことしやかに説かれていた「安全神話」とほとんど同じではないか。
「原子力情報センター」は、宿泊施設も備わる本格施設だ。国内外の核技術者がシノップの調査に訪れた時に泊る。
センター職員に「日本人技術者は宿泊したか?」と聞くと「日本人は泊らなかった」。
「シノップに日本人は来るか?」
「来る」
「三菱か?」
「たしかミツビシだったと思う。日本政府のエネルギー開発担当者も来た」。
センター職員は、「日本人技術者が福島の事故以降も来つづけている」と話した。
トルコ政府は子供だましのような安全神話をばら撒き地元の懐柔に懸命だが、反原発団体の反応は厳しい。
「シノップ反核プラットホーム」役員のカイハン・コヌックチュ氏(46歳)は「海に囲まれて緑も多い。環境汚染のない故郷を守るため体を張って(原発建設を)阻止する」と力を込めた。
カイハン氏は「日本製品を買わないという阻止方法もある」とも明らかにした。
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関西の篤志家S様ならびに読者の皆様のご支援により、トルコ取材に来ております。