「赤報隊義挙支持」のノボリを見てギョッとした。このノボリを先頭に立てたデモ隊は、銀座を抜けて築地の朝日新聞本社まで練り歩いたのである。衝撃のダブルパンチだった。
26年前のきょう(5月3日)、護憲勢力を震え上がらせる事件が起きた。猟銃を持った男が朝日新聞阪神支局に押し入り、記者2人を殺傷したのである。後に犯行声明を出したのが『赤報隊』だ。
この年(1987年)朝日新聞は、東京本社の窓ガラスに散弾が撃ち込まれ、名古屋本社の社員寮も銃撃されるなどしている。
当時の朝日新聞は今からは想像もできないほど尖がっており、護憲のオピニオンリーダーでもあった。憲法改正の頭目だった中曽根首相(当時)に対する最大の批判勢力が、朝日新聞だった。
26年を経て朝日新聞に限らず新聞・テレビはなべて丸くなり、権力批判のポーズさえとらなくなった。だが政治権力は当時と気味が悪いほど似ている。
中曽根政権と安倍政権はともに対米関係重視で軍備拡張路線をとる。小泉政権時、採用はされなかったが、中曽根氏は日本国憲法の前文を起草した。核武装を唱えタカ派で鳴らした。
安倍氏は憲法96条の改正を、7月の参院選の争点にすることを明言している。「国防軍を創設する」と勇ましい。両氏とも改憲論者、軍国主義者なのだ。
朝日新聞阪神支局を襲った『赤報隊』は犯行声明文のなかで「反日朝日」という表現を使っていた。きょう朝日新聞本社にデモをかけた『新社会運動』はHPで「反日朝日に天誅を」と言葉を極めている。「反日」は両組織をつなぐキーワードだ。
『新社会運動』の桜田修成代表は次のように話した―
「占領憲法を押し付けた日に(朝日新聞阪神支局襲撃事件は)起きた。犯人が誰であろうと大打撃を受けたのは朝日。政財界は皆粛清すべきだが、最も悪いのはマスコミ。朝日・毎日は反日新聞。読売は売国新聞。支那・朝鮮の走狗と化し、日本のすべてと戦っている奴らとの戦争だよ」。
~「戦車に乗る安倍首相を批判するメディアがない」~
安倍内閣の高支持率とマスコミの合唱。参院選の結果しだいで憲法改正は現実味を帯びる。施行66年を経て迎えた最大の危機と言ってよい。
護憲集会が開かれた日比谷公会堂は満席となり、溢れた人が特設のオーロラビジョンでゲストのスピーチに耳を傾けた。
昭和17年(1942年)生まれの女性(埼玉県在住・年金生活者)は、「防空壕に入ったことや灯火管制で電燈に黒い布が巻かれていたことを記憶している」と話す。
「これまで政治に関心になかった28歳の娘が“憲法96条を変えられちゃ危ないわね”と言う。やはり変えてはいけない」と言うなり彼女は口を真一文字に結んだ。
連れの女性(都内在住・保育士=50代)はさらに危機感をあらわにした。「“改憲”をマスコミが煽っているのではないか。どこを見ても同じ。安倍首相が戦車に乗っている写真を流して、それを批判するメディアもない。真っ直ぐに突き進んでいる感じ」。
不況は長引き生活は一向に上向かない……。時代を覆う閉そく感が、他民族への攻撃に転化される。新大久保、鶴橋で吹き荒れるヘイトデモも安倍政権の対中朝強硬姿勢も、根は同じだ。
軍拡まっしぐらの戦前と雰囲気が似てきたと思うのは筆者だけだろうか。
◇
相棒の諏訪都記者は通訳で渡航しており、7月半ばまでお休みします。