
逮捕を覚悟で抗議の座り込みをするクリス・ヘッジズ記者(拡声器を持った警察官の左隣)=2011年11月、ゴールドマン・サックス本社玄関前 撮影:田中龍作=
マムダニ新NY市長の誕生を日本のマスコミは、まるで革命でも起きたかのように伝える。いまさら何やってんだ、と言いたくなる。
拙ジャーナルの前稿『【NY市長選挙】マムダニ氏を当選させたウォール街占拠者たちの怒り』(6日付)でも述べたが、氏が登場する土壌となったのは、99%の人々が生きてゆけないような貧困社会だ。
庶民を生活苦に落とし込む搾取構造の頂点に君臨するウォール街。ど真ん中のズコッティ公園で、生活困窮者たちは炊き出しを受けながら命をつないでいた。
ある日、公園からデモ隊約100人が出た。目指すはゴールドマン・サックス社。強欲金融資本の総本山だ。うち十数人が同社の玄関前に座り込んだ。ピューリッツァー賞受賞のクリス・ヘッジズ氏(当時55歳)の姿があった。
氏は海外特派員として20年間にわたり中米、中東、アフリカ、東欧情勢を見つめてきた。

市民集会で「Occupy(占拠)」を鼓舞するクリス・ヘッジズ記者(テーブル席の奥から2番目)。=2011年11月、ズコッティ公園 撮影:田中龍作=
NY市警の現場班長と見られる警察官が拡声器を手に警告した。「座り込みを止めて退去しなさい。さもなくば逮捕する」と。
誰一人たじろがなかった。NY市警はゴボウ抜きにしていった。クリス・ヘッジズ氏も例外ではなかった。
市警は氏がピューリッツアー賞受賞者であることを知っていたのか。後ろ手錠にはしなかった。
一人また一人と逮捕されるたびに、デモ参加者からは「Shame(警察は)恥を知れ」と怒声があがった。クリス氏逮捕の瞬間、怒声はひときわ大きくなった。
デモに先立ち市民集会がズコッティ公園であった。地元ラジオ局が中継するなか、氏は次のように呼びかけた―
「東独の反体制派リーダーと会った時、『(東西ドイツの統一は)多分1年後くらいだろうね』と語り合っていたら、1時間もしないうちにベルリンの壁が崩壊し、東西を行き来する人々で溢れ返った。改革を信じて前進することが大事だ。途中であきらめるな」。

フリージャーナリストが国会記者会館の前庭で腰を下していただけで、会館の職員は警察を呼んだ。記者クラブは国有地を無料で利用しながら独占する。権力とマスコミの一体化だ。米国では考えられない。=2020年、官邸前 撮影:田中龍作=
14年かかったが、生活困窮者が立ち上がり、彼らの代表を市長に押し上げた。
ピューリッツアー受賞ジャーナリストまでが、99%の側に立つ米国。新聞テレビが政治権力と財界の側に立つ日本。
米国をはるかに凌ぐ貧困国家ニッポンで、マムダニ氏のような政治家が登場するメディア環境はないのだろうか。
~終わり~
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