
精強だった頃のヒズボッラーが鹵獲したイスラエル軍とその車両。=5月、レバノン南部 撮影:田中龍作=
ガザの惨禍を受けパレスチナの国家承認が世界の耳目を集める陰で、そら恐ろしい事態が隣国レバノンで進行中だ。
「これでユダヤ人はナチスのホロコーストを批判できなくなった」と国際社会に言わしめたパレスチナ難民キャンプ大虐殺事件(1982年)が起きた、レバノンで。
レバノン政府はイスラエルの天敵であるヒズボッラーを年内にも武装解除させる方針だ。だが当のヒズボッラーは拒否している。
レバノン政府軍とヒズボッラーとでは、ヒズボッラーの方が戦闘力は上回っていた。
だが昨秋の戦争で、ヒズボッラーはイスラエルに叩きのめされた。最高指導者のナスラッラー師を暗殺で失い、ベテラン戦闘員を殺害された。その数1万5千人とも言われている。
イスラエルは徹底して幹部を狙って仕留めた。生き残った部隊は実戦経験の浅い戦闘員が中心だ。
ヒズボッラーを支えていたシリアのアサド政権は倒れ、イランは米軍の空爆で弱体化している。

レバノン政府軍。=昨年10月、レバノン山岳地帯 撮影:田中龍作=
不運は続く。ヒズボッラーにとって追い討ちとなる事態が起きた。
レバノン南部に駐留している国連監視部隊の撤退である。国連安保理はレバノン南部に駐留する国連の停戦監視団を2026年末で終了させることを決めた。トランプ政権の意向によると見られている。
イスラエル軍は昨秋の対ヒズボラ戦争の際、国連停戦監視団の基地を砲撃した。精強なイスラエル軍に対して国連の部隊は無力だが、モニタリング機能は果たしていた。
「モニター部隊」がいなくなれば、レバノン南部で起きていることの正確な情報は伝わってこなくなる。
国連部隊の撤退はヒズボッラーにとって弱り目に祟り目だ。

停戦監視モニタリングでパトロールする国連軍の車両。無力である。=5月、レバノン南部 撮影:田中龍作=
レバノン政府とイスラエルは淫靡な関係にある。
ベイルート国際空港とヒズボッラーの最重要拠点ダヒーアは、密接する。野球場のネットのようなフェンスが間にあるだけだ。
ダヒーアに雨あられのごとくイスラエル軍のミサイルが降り注いでも、空港には破片ひとつ落ちない。レバノンのナショナルキャリアであるミドル・イーストエア機はミサイルの間を縫うようにして飛ぶのだ。
イスラエルとレバノン政府との間で打ち合わせがなければ不可能な技だ。
裏で結託したレバノン政府軍とイスラエル軍にヒズボッラーが壊滅させられる…国際謀略小説顔負けの現実が起きても何ら不思議ではない。
~終わり~
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