イスラエル軍の “歓迎” はいつにも増して手荒だった。
田中がプレスゼッケンを広げて「ジャーナリストだ、ジャ―ナリストだ」と叫んでいるのに手榴弾を投げつけてきたのである。「ドーン」。砲撃音のような音と共に火花が上がった。
エルサレムの北隣にあり入植地にも隣接するカランディア難民キャンプは、常日頃から緊張が絶えない。
だがガザ戦争開戦以降はフェーズが変わっているようだ。カランディアでの衝突はこれまで幹線道路沿いであり、少年たちの投石にイスラエル国境警察は催涙弾で応じていた。
まれに実弾が混じることもあったが、難民キャンプの中で市街戦を展開するようなことは少なかった。
きょう(4日)は様相がまったく別モードだった。イスラエル軍は実弾を使いながら難民キャンプの奥深くまで踏み込んできたのだ―
現場には地元ジャーナリストさえいなかった。ジャーナリストは田中龍作たった一人である。このうえなく危険であることの何よりの証左だ。
イスラエル軍が包囲する難民キャンプ内部に入った。虐殺や家屋の破壊があれば記録しなければならないからだ。
「パーン、パーン」。市街戦特有の乾いた銃声が響く。
カランディア難民キャンプはこれまでに幾度も訪れており、大体の地理は頭に入っている。田中は逃げ道を確保しながらイスラエル軍に近づいた。
イスラエル軍はモスクのすぐ傍に布陣していた。モスク近辺にファタハの司令部があると言われている。シンベット(イスラエルの国内諜報機関)が得ている内通情報もそうなのだろう。
田中の目の前にモスクの尖塔があった。モスクが破壊されるのではないかと気を揉む住民が覗こうとするとイスラエル軍は発砲した。紫色の煙が視界を遮るほどだ。
難民キャンプの家屋は鉄製の門扉を固く閉ざしていた。武装勢力が逃げ込んできた場合、追撃するイスラエル軍が踏み込み家屋は破壊される。それだけは避けたいのだろう。
時おり銃声が一段と高くなった。イスラエル軍が難民キャンプの奥深くまで踏み込んで来ていることは、発射音の場所で分かる。少年たちは顔面を蒼白にして逃げだした。女の子は悲鳴をあげた。
パレスチナ赤十字(赤新月社)によると、4日のイスラエル軍の侵攻でファタハの戦闘員一人が死亡、難民キャンプの住民15人以上が負傷した。
~終わり~
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【読者の皆様】
最盛期より幾らか安くなったとはいえ、ドライバーへは危険手当も含めて1日600ドル(約9万円)も払わなければなりません。
ホテル代も入れると1日平均10万円を超えるコストになります。毎日取材に出るわけではありませんが、1ヵ月に換算すると途方もない金額になります。
イスラエル軍の銃口よりも借金に怯えながらの取材行です。
ガザに隠れがちですがヨルダン川西岸でも着々と民族浄化が進んでいます。
ジャーナリストがこの世の生き地獄を伝えなければ、エスニック・クレンジングは歴史上なかったことになります。