6日午前、イスラエル軍が車両20台以上を連ねてナブルスのバラタ難民キャンプに襲いかかっていると聞き、田中は取材車を北上させた。
案の定、ナブルス入口の幹線道路は、イスラエル軍が閉ざしているため、山越えで裏から入った。けもの道である。幹線道路を行くより40分以上も多く時間を要した。
田中が難民キャンプに到着した時、すでにパレスチナ・ナショナル・セキュリティ・フォースの将校Abdul Riyahi氏が頭を撃ち抜かれて死亡していた。車両20台以上を連ねて侵攻してきた理由が分かった。
イスラエル軍は武装勢力の幹部を着実に殺害しているようだ。
バラタ難民キャンプ(4万3千人)はファタハの活動拠点でもあることから1週間に3回は、イスラエル軍が侵攻してくる。キャンプ内の建物という建物は弾痕だらけだ。
キャンプの真ん中を南北に貫くマーケット通り以外は狭い路地が縦横無尽に走る。大人が一人やっと通れるような道も珍しくない。蜘蛛の巣のようでもあり迷路でもある。
かつてのガザは市街地が迷路のようになっていた。2008~09年のガザ戦争で、イスラム聖戦(ハマスの兄弟分)の戦闘員がこう説明してくれた―
「陸上侵攻してきたイスラエル軍が迷い込むようにしてるんだよ。ブービートラップに掛けるんだ」。
バラダ難民キャンプにもやはり巧妙な仕掛けがあった。武装勢力はイスラエル軍の侵入を遅らせるために路地の入口をコンクリート片で塞ぐ。
イスラエルは御自慢の超大型ブルドーザーでコンクリート片を排除にかかる。ところがコンクリート片には対戦車地雷が仕込まれているのだ。
11 月20日にもファタハの司令部に空爆が掛けられ建物は全壊したが、きょう来るとファタハの旗は新調されていた。
連射ライフルで武装した若者(オッサンではない)がキャンプの中をパトロールして歩く。
11月20日の空爆後、イスラエル軍は陸上部隊を侵攻させ、武装勢力と関係があると見なした家屋に手榴弾を投げ込み破壊した。さらには家族とみなした住民をことごとくイスラエルまで連行した。
イスラエル軍はバラタ難民キャンプをガザのように壊滅させるつもりのようだが、相応の犠牲を覚悟しなければならない。
~終わり~
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【読者の皆様】
最盛期より幾らか安くなったとはいえ、ドライバーへは危険手当も含めて1日600ドル(約9万円)も払わなければなりません。
ホテル代も入れると1日平均10万円を超えるコストになります。毎日取材に出るわけではありませんが、1ヵ月に換算すると途方もない金額になります。
イスラエル軍の銃口よりも借金に怯えながらの取材行です。
ガザに隠れがちですがヨルダン川西岸でも着々と民族浄化が進んでいます。
ジャーナリストがこの世の生き地獄を伝えなければ、エスニック・クレンジングは歴史上なかったことになります。