【ザポリージャ報告】「故郷マリウポリを解放する」青年は再び政府軍兵士となった


地下室に避難していた住民たちがフォーボス兵士を出迎えた。表情を見れば仕込みでないことが分かる。=18日、オリヒフ 撮影:田中龍作=

 ニックネーム・フォーボス。ソ連支配下の末期、マリウポリに生まれた。政府軍兵士。所属と階級は不詳。

 ロシアによるクリミア半島強奪を受けて始まったドンバス戦争(2014年~)に政府軍兵士として出征した。

 2019年に退役。故郷のマリウポリ市(戦前の人口:44万6千人)に戻り、コンピュータ・エンジニアの職に就いていた。

 平穏な日々は3年しか続かなかった。ロシア軍の侵攻によりマリウポリは阿鼻叫喚の地獄となる。民間人の死者2万2千人以上(市当局まとめ)。行方不明者は数えきれない。

 ロシア軍は証拠隠滅のため遺体を焼く特殊車両まで用いたとされる。

ドンバス戦争が始まって間もない頃のマリウポリ。=2014年、レーニン通り 撮影:田中龍作=

 フォーボスは母親と共にロシア軍に拘束される。マリウポリ住民を国境の町ロストフ(ロシア側)に連行するバスが待っていた。

 2人はバスに乗せられる寸前、ロシア兵の目を盗んで脱出。地元住民の車に拾われて、ウクライナ軍支配地域のベルディヤンスクに逃げ延びた。3月中旬のことである。

 フォーボスは再び志願兵となった。「故郷マリウポリを解放するため」と軍人に戻った動機を語った。

 「兵器はウクライナ市民と国を守る。もし各国がもっと武器を供与してくれたら戦争は早く終わる」と続けた。

 押され気味だったウクライナ軍が形勢を逆転しつつあるのは米製兵器の供与が大きい。とりわけハイマース(高機動ロケット砲システム)の威力は抜群である。射程80㎞。ロシア軍の防空システムをかいくぐり、GPS誘導でピンポイント攻撃する。

 フォーボスは「ハイマースのおかげでロシア軍の侵攻が止まった」と評価する。明らかにゲームチェンジャーである。

「ポロシェンコ大統領(当時)はマリウポリを諦めるな(降伏するな)」。市民はプラカードを手にアピールした。=2014年、マリウポリ 撮影:田中龍作=

 田中は「このままロシアが戦争を続けたら?」と聞いた。

 「我々はウクライナが勝つまで戦う。我々は永遠に戦うことになるかもしれない。残りの人生は戦争しか知らないことになる」。

 「ウクライナ軍は勝つか?」

 「もし各国が重火器や精密兵器をもっと供与してくれたら勝つ。我々は他国を侵略しているのではない。国土と国民を守っているのだ」

 「ロシア軍兵士はカネのために戦っているが、ウクライナ軍兵士は自由のために戦っている」

 ロシア軍は隣国に押し入り大義なき戦いをダラダラと続ける。

 ウクライナ軍兵士の士気は総じて高い。そこに欧米から高性能の兵器が供与される。

 大量破壊兵器を用いるしかロシアの勝ち目はない。(文中敬称略)

  ~終わり~

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