虐殺の証拠隠滅は不可能だと思っていた。生き残りがいるからだ。
1987年、レバノンのベイルートに侵攻したイスラエル軍がパレスチナ難民キャンプを囲い込み、地元のキリスト教民兵にパレスチナ難民を虐殺させた。
その数は数百人とも数千人とも言われている。遺体を捨てられたり、遺体が切り刻まれたりしているので正確な数が分からないのだ。大虐殺があった時の常である。
この大虐殺には生き残りがいた。田中はベイルートの難民キャンプで本人(写真)から直接話を聞いた。
家に押し入ってきたキリスト教民兵が銃を乱射し、家族はバタバタと倒れる。イスラム教徒は大家族だ。倒れた家族が覆いかぶさったため、民兵は皆殺しにしたと思って引き揚げたのだ。
かろうじて生き残った難民は、駆け付けた各国のジャーナリストたちに当時のもようを証言する―
直接手を下したのはキリスト教民兵だったが、難民キャンプを包囲していたのは、イスラエル軍だったことも白日のもとにさらけ出された。
「イスラエルはもうナチスのホロコーストを批判できなくなった」。世界中の世論が湧き立った。イスラエル政府も真相究明委員会を立ち上げた。
シャロン国防相が現地入りして、民兵を突入させる作戦を授けたことも明らかになった。
こうしたこともあり虐殺証拠の完全隠滅は不可能なのだ、としばらく思っていた。
ところがイスラエル軍名物の超大型ブルドーザーを見て認識は一変した。
2014年のガザ戦争でそれまで商店だった所がきれいな更地となっていた。大きなキャタピラーの跡がある。
地元のパレスチナ人ジャーナリストに「これは何だ?」と聞くと、彼は「こうやって虐殺を隠すんだよ。デッドボディーを埋めるんだよ」とさりげなく答えるのだった。
ハマス殲滅に向けて攻勢を強めるイスラエル軍は、1日200人以上のペースでガザ住民を殺害し始めた。
夥しい数の超大型ブルドーザーを入れていることだけは田中も確認している。ブルドーザーはフル稼働して遺体を埋めまくっていることだろう。
かりに皆殺しできなくても生存者を強制収容キャンプに持って行けば、誰も接触できなくなる。
凄惨なガザの大虐殺は闇に葬られるのだろうか。
~終わり~
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