それはガザ北端のエレツから車で一時間ほど南南東に走った所にあった。
イスラエル軍の砲撃拠点である。戦車という戦車は砲身を30~40度斜め上にし、ガザに向けている。
ウクライナ軍とロシア軍のように正規軍同士の戦争であれば、砲撃拠点は最大の軍事機密である。
ウクライナ軍の場合、撮影してから48時間後に公開を許された。敵に砲撃拠点を知られればカウンターを食らうからだ。
イスラエル軍が田中に「はい、どうぞ」と言って写真を撮らせてくれた訳ではない。見つかれば拘束されるか、最低でも記録媒体の没収となる。
田中は取材車の中から砲身をガザに向けた戦車の群れを隠し撮りした。
砲撃拠点に通じる道路は、ウクライナだと軍が通行止めにしていた。イスラエルは驚くことに通り抜けできた。
かりにハマスがイスラエル軍の砲撃拠点を知ったところで、そこを正確に狙い撃てるわけではない。発射してもイスラエルの誇るアイアンドームから迎撃されるだけである。余裕といえば余裕だ。
核兵器まで保有する中東一精強な軍隊とブリキのロケットしか持たないゲリラ部隊。究極の非対称戦争である。
雑木林の中ではハマスとイスラエル軍の銃撃戦が断続的に繰り広げられていた。古典的なゲリラ戦だ。
超近代的なイスラエル軍が絨毯爆撃を続けても、地下に蟻の巣のように張り巡らされたハマスのトンネルを壊滅させることはできない。
アフガニスタンのトラボラ(山岳に掘られた迷路のような洞窟)を思い出す。
ベトナムのホーチミンルートも無数のトンネルが縦横無尽に張り巡らされていた、とジャーナリストの大先輩に聞いた。
アフガンゲリラにソ連軍が敗れ、ベトコンに米軍が負けた。2つの超大国が泥沼の非正規戦争に敗退したのである。
軽々にイスラエル軍が敗北すると断ずることはできないが、ゲリラ戦を得意とするハマスを相手に深手を負うことだけは避けられない。
~終わり~
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田中は人類史に残る大虐殺が起きる恐れのあるガザを取材するためにパレスチナに来ております。
危険手当を伴うためにドライバーに日額1千ドル(約14万円)も払わなければなりません。
飛行機代、ホテル代ですでに借金まみれとなっており、そこに巨額の取材費がのしかかります。
連絡先:tanakaryusaku@gmail.com