通訳とドライバーには、取材に出かける朝、その日の報酬の半額を前金で手渡ししていた。田中が撃ち殺されても、彼らが無報酬にならないようにするためだ。
報酬は危険性の高いエリアに行くほど高くなった。前線だったり地雷がウヨウヨ埋まっているような所だったりすると日当600ユーロ(約8万4千円)にもなった。ウクライナ人の平均月収と同じ金額である。
彼らは弾がピュンピュン飛んでくるような前線にもニコニコしながら同行してくれた。彼らが現金という訳ではない。プロなのだ。通訳はアゾフ大隊の兵士だった男だ。
戦争で職は見つからない。自らの命をリスクにさらすが、1日で平均月収と同じ金額を手にする。仕事に身が入るのは当然だ。確かにいい仕事をしてくれた。
自らの記事を「スクープ」などと自画自賛するのは恥ずかしくてできないが、『田中龍作ジャーナル』だけが伝えた重大場面は幾つもある。それは通訳(海外ではフィクサーと呼ばれる)のおかげだ。
ウクライナ最終日。「This is Ukrainian National Flag」。 キーウ中央駅で別れる間際、2人はウクライナ国旗を土産に持たせてくれた。
通訳とドライバーは私利私欲で日本のジャーナリストと仕事をしていたのではなかった。
~終わり~