私は時間の許す限りブチャに通って住民の証言を拾った。現場の状況と照らし合わせながら。
中央病院の遺体安置所と3台の遺体冷凍トレーラー(1台=300~400体収容)を単純に足すと1,000体を超す。マスグレーブが世界を震撼させたが、見つかった百数十体は氷山の一角に過ぎない。
取材を進めるうちに大量虐殺を生んだロシア軍のミッションが浮き彫りになった。
ロシア軍はブチャで領土防衛隊(TDF)の掃討作戦を展開したようだ。TDFは制服を着用している時もあれば、普段着の時もある。便衣兵である。
各家のドアを破って踏み込んできたロシア軍はTDFのリストを持っていて、家人がTDFのメンバーでないか、どうかを確認していた。TDFであることが確認されれば、その場で撃ち殺していたが、そのうち確認できなくても射殺するようになった。手当たりしだい撃ち殺して行ったのである。―以上、ビクトルさん(60代)の証言。
ロシア軍は中央病院の病室のドアを蹴破って入って来た。100室余りあるが、TDFがいないか、全室を見て回った。TDFはどの部屋にもおらず、病院でカラシニコフの銃口が火を噴くことはなかった。―以上、医師とベテラン看護師の証言にもとづく。
大量虐殺につながった理由は他にあるかもしれない。だが領土防衛隊(TDF)掃討作戦を進めた結果、手あたりしだいの虐殺となったことは間違いないようだ。
~終わり~
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通訳もリスクにさらすため高額の人件費がかかりました。カードをこすりまくっての現地取材でした。 ↓