【キーウ発】古戦場とならんことを

砲身はモシュヌ村に向いていた。目視で撃てる距離だ。=10日、ミロツカ村 撮影:田中龍作=

 開戦から74日目、5月10日。

 初夏の陽ざしを受けてロシア軍のT-72型戦車が無残な姿を晒していた。

 対戦車ミサイルの破片がキャタピラーの辺りに落ちていた。ボランティアで不発弾処理に携わる退役米軍兵士は破片を手に取り「これがあそこ(車輪)を撃ち抜いて戦車の中で爆発したんだ」と説明した。

 砲身はわずか2㎞先のモシュヌ村を向いていた。村はキーウまでの直線距離が25㎞。ロシア軍が誇る自走砲「2S19」の射程距離(29㎞)に入る。

 このためウクライナ軍とロシア軍の攻防は苛烈を極めた。どちらが村を取っても翌日は取り返された。

 首都を落とさせないためにもウクライナ軍はモシュヌ村を死守せねばならなかった。

 米軍の協力もあって索敵に勝るウクライナ軍は、村に砲撃を浴びせてくるロシア軍戦車の位置をいち早くキャッチした。歩兵を走らせ対戦車ミサイルの一撃で葬ったのである。
 
 赤錆びた車体の上にモロトフカクテルの小さな破片があった。近くに住む村人が投げつけたのだろう。 

 夏草はまだ生い茂っていなかったが、総力戦でロシア軍から首都を守った兵たちの面影は偲ばれた。

 古戦場とならんことを願うのみだった。

戦車がもし火を噴いていたら戦略要衝のモシュヌ村はロシア軍の手に落ちていただろう。首都は明らかに危うくなっていた。=10日、ミロツカ村 撮影:田中龍作= 

    ~終わり~

   ◇
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