「セーフ・イーチアザー(お互いを守れ)」「ファイアー(撃て)」
教官の鋭い声が林間に飛ぶ。教官は退役軍人だ。
田中は5日、地元記者と共に領土防衛隊(Territorial Defense Forces)の訓練を取材した。
領土防衛隊は政府軍を第1軍とするならば、第2軍のような存在である。
平時は1万人体制だが、有事は13万人体制となる。
訓練はゲリラ戦を想定していた。ウクライナは森林が多い。木陰に隠れながら敵を撃つ訓練だった。
防衛隊員によれば、ロシア軍が侵攻してきた場合は隊員全員に武器が行き渡る。カラシニコフAK47や対戦車砲(ソ連製)だ。
全面戦争となった場合、ウクライナ政府軍は圧倒的な戦力差でひとたまりもなく打ちのめされるだろう。
だが政府軍が投降しても領土防衛隊は戦闘を継続するだろう。そのための第2軍である。
防衛隊員たちは異口同音に「ロシアが攻めてきたら殺す」「私たちの領土を守るためだ」と答える。隊員たちの士気は高い。
ハンガリー動乱(1956年)の再現が懸念される。
ハンガリー新政府が、東側の軍事同盟であるワルシャワ条約機構からの脱退を表明したところ、ソ連軍が軍事介入してきたのである。
市民たちは警察や軍から入手した武器を手にソ連軍と戦った。素人が重武装の大軍に勝てるわけがなかった。ハンガリーの人々はソ連軍に殺戮されたのである。
「ワルシャワ条約機構からの脱退」を「NATO加盟」に置き換えたら、どうなるか。ウクライナがハンガリーの二の舞になったりはしないだろうか。
紛争地のどこに行っても劣勢にある国・民族の義勇兵たちは「私たちの領土を守るため戦う」と答えた。それ自体は当然の感情だ。
だが最終的には領土を奪われ殺戮される。
プーチン大統領は、ウクライナの犠牲を最小限度にとどめたいのであれば、陸上侵攻すべきではない。
~終わり~
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