女房が頬に氷をあてている。「歯茎が痛い」と言う。噛めなくて熱もあるのだそうだ。
田中が持っていた抗生物質と市販の痛み止めで急場を凌ごうとしたが、症状は改善しなかったため、近所の歯医者に行った。
受付で健康保険証を出したところ、「事務員から「(保険証が)期限切れです。10割払って、新しいのを持ってくれば、差額を返還します」と言われた。
女房が「いくら位になりますか?」と聞くと、事務員は「治療なら1万円。薬だけなら3千円」と答えた。事務員は表情ひとつ変えず淡々と言った。
女房は迷わず、薬だけにしてもらった。3千円を払い薬を受け取った。
帰宅して新しい保険証を探したが、なかなか見つからない。区役所に電話をかけて再発行してもらうことも考えたが、保険料を「滞納」しているため再発行は難しいだろうと思い、止めた。
保険証はなにせ小さい。名刺大のサイズである。片っ端から引き出しを開けた。小一時間、経過したあたりで見つかった。保険証は古い財布の中にあった。
翌日、歯医者に行き2千円くらい返還してもらえた。幸い保険証は失効していなかった。滞納期間が3ヶ月位だったからだ。
厚労省によると国民健康保険料の滞納は245万世帯にも及ぶ(2019年)。
貧困化が進んでいるうえに保険料が上がれば、滞納者は当然増える。
滞納が長期に及ぶと国民健康保険証は市区町村区役場に取り上げられる。赤旗によると245万世帯のうち3割が保険証を取り上げられている。
病院にかかったら10割負担となるのだ。そもそも貧しくて保険料が払えない人々に「10割負担しろ」と言うのは「死ね」と言うのに等しい。
日本医師会の幹部にたまたま『田中龍作ジャーナル』の読者がいて、こんなことを話してくれた―
「田中さん、国保はねえ、上からと下からの両方で潰れるんですよ」。
「上からと下から」を次のように説明してくれた。
上からとは、TPPによる自由診療が拡大すれば国保の存在意義が薄れる。金持ちが国民健康保険料を払うのを嫌がるようになる。
下からとは、貧困化が進んで、国保が払えなくなる層が限度を超えれば、国保財政はパンクする。
病気にかかっても医療につながることができず、自宅で もがき苦しみながら 死んで行く。
コロナ禍で「異常」といわれた今夏の状態が日常化するのである。
~終わり~