日本のメディアは「歴史の法廷」に立てるか

中曽根元首相・合同葬。「ザッザッザッ」。振り向くと軍靴の足音だった。歴史は繰り返す。=17日、都内 撮影:田中龍作=

 10年ぐらい前だったか。中曽根元首相が外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を持った。

 背はやや前かがみだったが、足取りはしっかりしていた。なにより滑舌明瞭で話しぶりからは老いを感じられなかった。

 いざ記者会見が始まると、外国記者の質問は、戦時中、海軍中尉だった中曽根氏がインドネシアで作った慰安所に集中した。

 海外の記者たちは具体的な証拠をあげ「prostitution(売春)」という単語まで用い、元海軍中尉を追及した。

 中曽根氏は「将兵の娯楽施設がないため、それを作った」と苦しい言い訳に終始した。

 ウンカのごとく押し寄せたグラマンが爆撃を浴びせ、戦艦大和を沈没させた時も、こんな光景だったのだろうか。田中はそう思わずにはいられなかった。

 「政治家は歴史法廷の被告」と豪語していた中曽根氏だったが、海外記者の前では形無しだった。威風堂々とした体躯が小さく見えた。

 記者会見で日本の記者が中曽根氏を追及する場面はほとんどなかった。

戦前戦中にタイムスリップしたのだろうか。そんな錯覚をおぼえた。=17日、中曽根元首相・合同葬の会場入り口に整列した海上自衛隊の儀仗兵=

 「歴史を曲げる民族は滅びる」と言われる。

 日本は「曲げる(=改竄する)」どころではない。破棄する国でもある。

 終戦直後、役人たちは公文書を焼却した。霞ヶ関には黒煙が立ち上った、と聞く。都合の悪いことは無かったことにする。

 その伝統は安倍政権に受け継がれた。そして今、スガ政権にリレーされた。劣化コピーとなって。それでも日本の記者たちは尻尾を振って、政権に気に入られようとする。

 歴史を改竄し破棄させる政治家を追及できない日本のメディアは、「歴史の法廷」に立てるだろうか。

  ~終わり~

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