【アフガン】ケシと民族対立 沃野になられては困る勢力が中村医師を暗殺した

戦乱が絶えないアフガンの大地。男性の人生で平和な時はどれ程あったのだろうか。=2007年、カブール郊外 撮影:田中龍作=


戦乱が絶えないアフガンの大地。男性の人生で平和な時はどれ程あったのだろうか。=2007年、カブール郊外 撮影:田中龍作=

 アフガニスタンの正体はケシである。ここを押さえないと中村医師殺害の本質には迫れない―

 パキスタンから陸路で行く場合、雲を下に見るような山道を通ってやっとアフガニスタンにたどり着く。7千メートル級の山々が連なる高地だ。

 空気が乾いているためアフガン産のケシは純度の高いヘロインが抽出される。しかも、年に3回の収穫だ。

 農家一戸あたりの月収は100~200ドル。ケシは2,000ドル~4,000ドル。(2007年頃の数字)

 農民は10歳にも満たない娘をカネのために嫁がせるほど貧困だ。ケシ栽培に飛びついて当然の環境だ。

 世界のケシ栽培量の80%を占める麻薬大国、それがアフガンだ。(国連推計) 

 ケシは現地でヘロインに抽出され隣国に運び出される。ケシの栽培と搬出は各軍閥の利権だ。

 軍閥とは国内各民族がそれぞれに持つ武装集団のことだ。

ぶどう畑の木々は干ばつで立ち枯れしていた。=2007年、カブール郊外 撮影:田中龍作=

ぶどう畑の木々は干ばつで立ち枯れしていた。=2007年、カブール郊外 撮影:田中龍作=

 アフガンはパシュトゥン、タジク、ハザラ、ウズベクの4民族から成る。それぞれが軍閥を持つ。

 各民族すなわち各軍閥はケシ利権をめぐって、凄惨な争いを繰り広げてきた。

 カブール陥落直後の2002年に取材に入った時だった。

 取材コーディネーターを務めてくれたタジク人は、地雷原を歩くのにも「オレの足跡以外は踏むなよ」と言って田中の先を歩いた。

 こんな豪胆な男が他民族の支配地域に行くと4輪駆動車のドアにロックをかけて顔をピクピクさせていた。

 アフガン人にとって他民族とは、殺すか殺されるかの対象なのである。

 ケシをめぐる苛烈な民族対立があって、武器は絶えず供給される。大統領の実弟が麻薬王だった国だ。

 ペシャワール会で殺害されたのは中村医師だけではない。2008年8月、同会の伊藤和也氏がタリバーンに拉致され、銃撃により命を落としている。

 緑の沃野になっては困る勢力がいて、中村医師らを暗殺したと言ってよい。

   ~終わり~

     ◇
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