来日中のサチ・コソボ共和国首相がきょう、日本外国特派員協会で記者会見した。
ハシム・サチ氏(1968年生まれ)はコソボ民主党の党首にして初代首相。コソボ戦争(1999年)の際は、KLA(コソボ解放軍)の政治的指導者として欧米、ロシア、セルビアとの和平交渉にあたった。
欧米諸国はコソボ戦争の際、民族自決を支援するとしてユーゴスラビア(セルビア)を空爆した。ところが米国が演出したウクライナ危機では、クリミア住民の民族自決に強く異議を唱えている。
ユーゴ(セルビア)空爆は78日間(第1次湾岸戦争は42日間)に渡り、2万6,614発もの爆弾が投下された(※)。一方、ロシア軍はクリミアで威嚇射撃をのぞけば、一発の砲弾も撃っていない。
米国主導の激しい空爆は正義の戦いとなり、ロシアは出向いただけでも侵攻となる。甚だしい世論操作ではないだろうか。
西側諸国を中心に102か国(2013年9月現在・日本外務省まとめ)がコソボを独立国として承認しているが、ロシアの反対で国連には未加盟。セルビアの反対もあり、コソボの地位は宙に浮いたままだ。
ダブル・スタンダードの渦中にいるコソボ共和国首相に質問した―
田中:十年前にコソボに行ったら、大通りのビルの壁いっぱいにビル・クリントン大統領の写真が飾られていた。クリントン大統領はコソボのヒーローだ。プーチン大統領はクリミア半島のロシア民族を解放した。両方とも民族自決の原則に基づいたものだ。クリミアではプーチン大統領がヒーローになっているが、欧米はロシアを非難する。矛盾ではないか?
ハシム・サチ首相:今では目抜き通りにクリントン大統領の立像もある(笑)。
コソボとクリミアは並列には論じられない。コソボには民族的アイデンティティがあり、コソボの独立はジェノサイドと百万人のコソボ人が追放された戦争の後で宣言されたものだ。わが国の独立宣言は領土の主張や他国への編入を伴っていない。
フリー記者:国連加盟について。国連加盟にあたって最大の障害となっているものは何か?また、国連加盟に際して努力している点は?
サチ首相:わが国は国連加盟に大変意欲がある。アハティサーリ(前フィンランド)大統領も国連加盟を強く勧めてくれた。アハティサーリ大統領は特使として国連に働きかけた。だれもこの案に反対しなかったが、ロシアが最終段階になって反対した。コソボは国連安保理でロシアの拒否権の対象になっている。端的に言えば、コソボの国連加盟を阻んでいる最大の障害はロシアである。
一国の命運がロシアと欧米の対立に翻弄される状況は、冷戦後も変わっていない。米国にそそのかされて親露派大統領を追放した後、ニッチもサッチも行かない泥沼にはまり込んだウクライナは、それを象徴している。
ダブル・スタンダードなき世界を求めるのは、理想郷を探すようなものなのだろうか。
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※
『防衛研究所紀要』(2001年11月)より