窮鼠猫を噛む。国と電力会社の横暴に対して自治体が反撃に出た―
大間原発の対岸にあたる函館市が同原発の建設差し止めなどを求めてきょう、東京地裁に提訴した。自治体が原告となり原発の建設差し止めを求めて訴訟を起こすのはこれが初めてのケースだ。
被告は電源開発株式会社と国。原告の函館市が求めているのは次の三本柱―
▼経産大臣の原子炉設置許可は無効。
▼国は電源開発株式会社に大間原発の建設停止を命ぜよ。
▼電源開発株式会社は大間原発を建設、運転してはならない。
函館市は人口27万5千人。最も近い所は大間原発から23キロしか離れていない。いわゆる30キロ圏内である。
東電・福島第一原発の事故を受けて原子力災害対策特別措置法が改正され、30キロ圏内の自治体に対して原子力防災計画の策定が義務づけられることになった。
30キロ圏内の自治体は過酷事故が起きた場合に備えて、モニタリングや住民避難などの体制を整えておかなければならなくなったのである。
負担が増えたにもかかわらず、原発建設の際の同意手続きの対象とはされていない。今回の訴えでは「函館市のような30キロ圏内の自治体も対象となるべき」としている。
したがって函館市が大間原発の設置に同意するまでの間、国は電源開発株式会社に対して大間原発の建設停止を命じるべきである――というのが今回の訴えの骨組みだ。
午後3時15分、東京地裁民事訟廷事件係。工藤壽樹・函館市長は代理人弁護士らに付き添われながら神妙な面持ちで訴状を提出した。
工藤市長を突き動かしたのは危機感だ。原発事故後間もなく、福島へ視察に訪れた。「地域が崩壊してしまう。人が住めなくなる」。27万5千人の自治体の責任者は反芻するように話した。
「国や電源開発に対して再三にわたって要請をしてきたが、何も対応してもらえなかった。地域の不安に対して何ら配慮して頂けなかった。函館市民の安全を守るために万(ばん)止むを得ず提訴に至ったことは残念」。工藤市長は無念さを滲(にじ)ませた。
「『(国から)避難計画を作りなさいよ』と言われ、それなのに国や事業者からまともに相手にしてもらえない」。
工藤市長によれば函館市への説明会も開かれなかった、という。「意見を言う場も設定してもらえなかった。危険だけを背負う理不尽さ…」。工藤市長は唇を噛みしめた。
原発立地自治体ではない、30キロ圏内の自治体はいずれも重荷だけを背負うことになる。函館市はこの理不尽さに異議を唱えたのである。提訴の波紋は全国に及ぶ。