時の政府や霞が関に不都合な情報を表沙汰にしたら、権力はこう仕打ちをしてくる。代表的な事件の当事者がきょう、国会内で秘密保全法の危険性を訴えた―
元毎日新聞記者の西山太吉氏(1931年生まれ)。沖縄返還に絡む日米両政府間の密約をスクープしたが、国家公務員法違反(教唆)で逮捕された。
西山氏は情報公開の精神なき日本政府の姿勢を厳しく批判した。格好の例としてイラク戦争への協力をあげた。
「日本のイラク戦争参加は情報開示請求しても真っ黒。(航空自衛隊は表向き国連の人道支援に協力するとしていたが)実は69%が武装米兵を運んでいた。それを隠していた。建前と実際が違う。日米同盟関連(の情報)はいつもそうだ」。
「(海上保安部の船に激突した)中国漁船のビデオなど秘密でも何でもない。すり替えだ。(政府は)日米同盟の中味が出てくることが一番怖い」。
「特別秘密など外務省に行ったらゴロゴロある。部内秘といったもの。日米同盟以外に秘密はない。なぜ特別秘密指定が要るのか?(公務員法で十分)」。
原発運転差し止め訴訟で秘密の壁に向かい続ける海渡雄一弁護士は次のように危機感を示した―
「ウィキリークスに情報を漏らした米軍のブラッドリー・マニング2等兵は禁固35年、英紙などに情報漏えいした元CIA職員のスノーデン氏は死刑にならないだけでロシアに亡命。日本もアメリカと同じような国になってゆく。(秘密保全法は)アメリカと情報共有するための立法だ」。
沖縄返還協定(1971年締結)で、基地の一部を返還する米国は現状回復費用の400万ドルを地主に支払うこととされていた。だがこれは表向きで、実際は「日本政府が費用を全額肩代わりする」―密約が日米間で交わされていた。この密約を外務省からスッパ抜いたのが毎日新聞記者(当時)の西山氏だった。
本来米国が支払うべき土地の現状回復費用を日本国民の税金で賄う。理不尽な密約を西山記者は世に知らしめたのである。だが国民の利益にかなうことは、時の権力者には不都合だった。
西山記者に機密文書を渡した外務省の女性事務官は国家公務員法違反で逮捕され、西山記者も教唆(そそのかし)で逮捕される。沖縄返還を自らの偉業としたかった佐藤栄作首相(当時)の逆鱗に触れたのである。
外務省も極秘の密約があることを伏せておきたかった。公務員法でも政と官がその気になれば、ジャーナリストなんぞ簡単に逮捕できるということだ。
公務員法であれば1年以内の懲役だが、秘密保全法では10年以内と俄然厳しくなる。正義感の強い公務員がまれにいる。彼らからの内部告発や協力で行政の不正が明るみに出たりしてきた。
だが10年間を獄中で棒に振るとなれば、簡単に行政の不正を外に出せなくなる。家族もいるし自分の人生もあるからだ。厳罰化だけでも威力十分だ。
秘密保全法は来週火曜日(15日)から始まる臨時国会の目玉となりそうなだけに、関心は高く会場の参院会館講堂は超満員となり立ち見も出た。超党派(共産、みんな、社民、生活、無所属)の国会議員20人(代理人含む)が出席した。
講演に耳を傾けた杉並区の主婦(50代)は「区議会議員の政務調査費を情報開示請求したら黒塗りしか出てこなかった。秘密保全法が通ったら黒塗りさえも出てこなくなる」と話す。
区議会のレベルまで秘密指定が掛かるかどうかはともかく、「由らしむべし知らしむべからず」の社会が訪れようとしている。