「プロ野球の選手になりたい」「給料が上がりますように」……七夕の短冊といえば、子供や大人がささやかな夢を託すものだった。ところが、福島の惨事を境に恐ろしいまでに現実的なものへと変わった。
原発事故が起きた2011年の7月7日、母親たちが東電に七夕のメッセージを届けた。
手渡した要望書の趣旨は「原発を使わない電気を供給して下さい」というものだった。東電本店前に並んだ短冊には、さらに切実な言葉が連ねられた。「安全でおいしい魚、肉、野菜が食べられますように」「子どもたちに明るい未来を残せますように」……
それから2年、今年の七夕は2万枚の短冊が首相官邸前にひるがえった。主催者の「100万人の母たち・七夕プロジェクト実行委員会」がFacebookなどで募ったところ、日本全国そして海外から膨大な数のメッセージ(短冊)が寄せられたのである。
主催者のひとりは「最高権力者に届けたかった」と首相官邸前に短冊を並べた意義を語った。最高権力者は、再稼働まっしぐらで海外にも原発を売り込む。事故の収束もまだ、原因究明もなされていないにもかかわらず、だ。
「除染よりも何よりも優先して下さい。子どもたちの集団保養を!」福島の母親がしたためた短冊だ。
「将来、原発事故の影響で長生きできなかったという人がいませんように」こちらも福島の人のメッセージである。
通底するのは子どもの健康に対する不安だ。6月28日に子どもを出産したばかりの福岡市の母親の短冊が心を打つ――
安倍さん、私もあなたもお母さんのお腹にいましたね。 皆 母とつながっています。
安倍さん、娘の手なんか もう こんなにも ちっちゃくて 柔らかいんです。 この手に何を残してあげられるか。 核や いのち を危険にさらすものは持たせたくありません。
後から生まれ出づるものたちに 「どうぞ」って微笑む気持ちでいっぱいの世の中になりますように…。 どうか あふれますように…。
夫の土井雅生さん(自営業・44歳)は妻の思いを次のように話した。「子どもを守るため、自然を守るため、次世代に責任を押し付けてはならない。原発を続けることは汚れた地球を残すことになる」。
彦星と織姫が人間界のありさまを知ったら、星空から「天の川を放射能で汚さないで」と叫ぶことだろう。