原子力の規制行政を一手に担う原子力規制委員会とその実働部隊にあたる原子力規制庁がきょう、発足した。第1回目の会議も開かれた。自己紹介程度の簡略な会議だった。
原子力規制委員会は政治に影響されない強い独立性が与えられてのスタートだ。仮に反原発政権が登場しても、規制委員会が再稼働を認めれば、原発は動く。
とんでもないモンスターがきょう誕生したのである。誰しもが首を傾げるのが委員5人中、3人までもが原子力村の恩恵に浴していたということだ。田中委員長は原子力村の名誉村長とまで揶揄されるほどだ。
原子力安全委員会や保安院は電力会社に絡め取られ、規制が骨抜きにされていた。規制委員会の人事は、過去の反省がないことになる。
この問題について記者団から聞かれた田中俊一委員長は次のように答えた。
「どの仕事をしていたから、どうというのは反対です。きょうここに集まった人達(規制庁の職員)は、ノーリターンルールで身を捧げようという人たちだから十分な覚悟を持っている」。田中氏は自分の問題を規制庁職員とすり換えたのである。
週刊金曜日の伊田浩之氏は金銭問題を追及した。「田中委員長が副理事長を務めていたNPO法人への献金を明らかにして下さい」と。
田中氏は「私一人で決めることはできない」とかわした。原子力村からNPO法人にカネが流れていれば、アウトになるはずだ。
原発への規制はさらに分かりにくい。記者団からの質問が集中したのは、大間原発の建設についてである。
田中委員長は上手にかわした。「原発新増設の申請があれば、委員会として判断する」。大間はすでに建設が決まっているため、規制委員会で検討する問題ではないと言いたいのだろう。だが「原発を30年代までにゼロにする」という政府の方針とは矛盾する。
国のエネルギー政策の矛盾点について聴かれると、田中氏は「私の立場で言うことは控える」と突っぱねた。
田中委員長は原発が抱える矛盾そのものである核燃料の再処理問題についても曖昧だった。
六ヶ所村の再処理施設はトラブル続きで全くと言ってよいほど稼働していない。だが動くということにしないと青森県から使用済み核燃料を突き返される。ところが動かすと危険だ。
規制委員会がこの先、原発の再稼働を認めれば、原発の使用済み燃料プールは数年で満杯になる。六ヶ所村のプールはすでに97%が埋まっている。(東京新聞による)
「再処理と再稼働との関係で回答して頂きたい」と筆者は迫った。
「再処理施設は重要な施設、安全かどうか今後検討する」と田中委員長。
「電力会社の幹部がある国会議員のところに説明に来て『六ヶ所村は当分、動きませんから』と言ったということだが?」。
「六ヶ所を動かすとか動かさないとか判断はしない」。
「規制委員会の仕事は何なのか?」
「安全を確保することです」。
再稼働、再処理、原子力村との金銭関係。田中委員長の答えはすべてが曖昧だった。これで5年間、原子力の規制行政に君臨するのである。福島の事故を繰り返さぬようにと原子力規制委員会が掲げた「透明性」は、一体どこにあるのだろうか?
唯ひとつ救いがあるとすれば、田中委員長が「次回から一般の人も(原子力規制委員会の会議も)傍聴できるようにしたい」と方針を示したことである。
《文・田中龍作 / 諏訪都》