警察の規制は厳しかった。首相官邸の200mも手前の歩道上に警察官が立ち官邸方向に行こうとする人をチェックした。筆者がプレスカードを提示し、官邸の記者会見に登録されていることを説明すると、警察官は無線で所轄に照合した。
警察官によるチェックポイントを3回通ってやっと官邸前の集会場所にたどり着いた。プレスカードがなかったら、どうなったことやら。フォトジャーナリストの豊田直己氏も同様だった、という。
金曜恒例となった官邸前の原発再稼働反対集会(主催:首都圏反原発連合)。6日はこれまでよりピリピリした雰囲気の中で始まった。
前回(6月29日)のように参加者を車道に出すまいと、警察は巧妙かつ徹底的に人の流れを規制した。「東京メトロ国会議事堂前」駅で降りる参加者を、官邸前に近い出口から出さず、霞が関寄りの出口から出した。
さらに警察は歩道に上がって来た参加者を、20~30mごとにポールとバーで仕切った枠から出さないようにした。
方々から駆け付けた参加者で枠の中は一杯になった。宮崎県から飛行機で訪れた男女2人組は「前回(6月29日)の集会をネットで見て、居ても立ってもいられなくなって来た。歴史を変えるために来た」と頬を上気させた。
参加者の輪が全国各地に広がるにつれ、国会議員の参加も増えている。この日は福島瑞穂・社民党党首や三宅雪子議員(民主党離党)ら常連に加えて亀井静香・前国民新党代表の姿もあった。自民党時代、大臣を歴任し自派閥を率いていた大立者だ。政治も歴史の変換点を迎えているのだろう。
「(原発事故によって)我々は文明のしっぺ返しを食っている。このままだと、とんでもないことになる…」。亀井氏は独特のダミ声で訴えた。
政治家の参加が増えることを主催者も歓迎しているようだ。主催者の一人レッドウルフさん(ハンドルネーム)は「参加者が一万人を超えたあたりから政治が動きだした。政治を動かしている実感がある」と自信を示す。
集会場で官邸に最も近い場所がスピーチ・スポットだ。国会議員も市民も分け隔てなく、持ち時間2~3分以内で官邸への思いをぶつけた。
前回は7時を少し回った頃、歩道の規制線が決壊し参加者が車道に溢れた。6日の集会は、警察の規制が厳しかったため、7時を過ぎても人々は歩道上に列を作ったまま「再稼働反対」の声をあげていた。
だが「今日は静かに終わるのかなあ」と思った矢先だった。「決壊したぞ~」、降りしきる雨音を突いて誰かが叫んだ。筆者は車道に駆けだした。
参加者が車道に溢れ出ている。「再稼働反対」を叫びながら官邸に向けて前進している。警察隊が2段構えでピケを張ったが、数万人の前進圧力に押されがちだ。警察、参加者ともに鬼のような形相である。
間髪を入れず官邸正門を機動隊の輸送車約10台が封鎖した。
主催者側の誘導係が官邸のはるか手前でピケを張った。参加者たちを暴徒化させないための自主的措置だ。プロの警察隊が防ぎきれないものを素人が堰き止められるだろうか。
7時38分、私服刑事が主催者の一人に解散を迫った。「前(演説スポット周辺)を解散させれば、皆解散するんだよ」。
「手前で我々が防衛線を張ってますから」と主催者。リーダー格の私服刑事が大きく首を横に振った。
「続けたい」「いや解散してくれ」。主催者と警察の押し問答が、わずかの間あった。
それから10分後、主催者は散会を告げた。「この混乱状態で集会をこれ以上続けることはできません。よって散会とさせて頂きます」。拡声器を使った声は、人々を説得させるのに十分な力を持っていた。
議事堂に隣接する歩道上から「やめるな」のヤジが飛んだが、主催者の宣言通り散会となった。
「再稼働反対、再稼働反対…」。悔しさを押し殺した主催者の声が雨空に響いた。参加者たちは地下鉄の入り口に向けて流れ始めた。
《文・田中龍作 / 諏訪京》
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