組織による緩やかな殺人ともいえる過労死。労災認定されなければ、一家の大黒柱を突然失くした家族は塗炭の苦しみを味わう。手塩にかけた子供を失った親の心痛は計り知れない。
厚労省の統計によれば、過労自殺も含めた過労死の労災申請は、年間約2千件にものぼる(2010年度)。
労働基準法(第32条)では使用者が労働者を1日8時間、週40時間を超えて働かせることは禁止されている。だが、尻抜けできる「36協定(※)」が存在し、いくらでも残業を課すことができる。過労死が起きるシステムが労働法規の中に組み込まれているのだ。4人に1人が過労死予備軍との見方もある。
法改正がない限り過労死は後を絶たない。遺族らが「過労死防止基本法」の制定を求めて6日、国会内で集会を開いた。同法の制定を求める署名21万5千筆も持ち込まれた。会期中であるにもかかわらず国会議員が27人も出席したのは、この署名を軽視できないからだ。
佐川急便で働いていた夫が6年前に自殺した女性の話は、過労死に至る苛酷な実態を象徴していた――朝6時に家を出て、遅い時には深夜12時を回って帰宅していた。朝は数時間働いた後でIDカードを擦り(タイムカード打刻の意)、夜は擦った後で働いていた。こうしたことは他のドライバーでも当たり前だった。
経理の仕事をしていた長男を3年前に脳溢血で失った父親も、同様の実態を語った――帰宅が毎日のように深夜12時を過ぎ、休日も出勤していた。午前3時頃まで仕事をし、会社の駐車場で寝て、コンビニ弁当を食べてそのまま出勤したこともあった。
人を人とも思わぬ働かせ方である。だが「36協定」に加えて、会社側がタイムレコーダーの記録を改ざんしたりするため、過労死の労災認定を得るのは容易ではない。会社側による揉み消しや遺族への懐柔もあり、申請は氷山の一角と見る向きが多い。
集会の途中、遺族の代表団と弁護士が、小宮山洋子厚労相に面会し、「過労死防止基本法」の制定を要望した。
過労死が社会問題になって久しいにもかかわらず、政治の動きはあまりに遅かった。『全国過労死を考える家族の会』が結成されて20年余りになるが、厚生労働大臣に面会できたのは、今回が初めてだ。
「失くした命は2度と戻ってこない。だがこれからの命を救うことによって失った命を活かすことができる」―『同家族の会』の寺西笑子代表の言葉が胸に残る。
1日も早い「過労死防止基本法」の制定が待たれる。
《文・田中龍作/諏訪京》
※
「36協定」。労働基準法第36条にちなむ。労働組合と協定を締結すれば、特例として時間外勤務(残業)や休日勤務が可能になる。
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