【東電前プチデモ】 実母介護の手休め「前から抗議の声を挙げたかった」

ハンドルネーム太安萬呂さん。52分間、東電ビルに向かって訴え続けた。=10日昼、東電本店前。写真:筆者撮影=

ハンドルネーム太安萬呂さん。52分間、東電ビルに向かって訴え続けた。=10日昼、東電本店前。写真:筆者撮影=


 ハンスト青年に刺激されて立ち上がった埼玉県の主婦に、都内の主婦が勇気をもらう。東電に対する「単独抗議」の連鎖が続く。きょうはハンドルネーム太安萬呂さん(主婦・50代後半=都内在住)が東電前で抗議の声をあげた。

 「魚はセシウムが生体濃縮されているから気を付けて下さいよ~」。太さんはプラカードを手に東電正門前で道行く人に語りかけた。お昼時、ランチに向かう東電社員の姿も目立つ。

 抗議活動は車道を挟んで向こう側の歩道上と相場が決まっている。東電の守りを固める制服警察官がたちまち彼女を取り囲んだ。

 班長格が「向こうでやって下さい」と告げた。
太さんは「どうして?道路交通法上、何か問題あるの?」と突っぱねた。

 「皆さん、抗議はあちら(道路を挟んで反対側の歩道上)でやってもらってますんで…お願いします」と班長格。彼女は、意外にもすんなりと受け入れた。後で理由を聞くと「次の人につなげるためにも、私が突出して(抗議活動を)難しくしちゃいけない」とのことだった。

 「前から声を挙げようと思っていた。東電の皆さんに直接語りかけたかった」と話す太さん。実母(94才)の介護で日頃は家を空けることができない。実母が初めて行政のデイケアサービスを受けることになり、彼女はきょう日中だけ介護から解放された。念願だった「東電前抗議」の機会が訪れたのである。

 「洗い流せばいいと思ってるんでしょうけど、汚れは全部海に出るんですよ」「これ以上、原発を作らないでください」……太さんは巨大な東電本店ビルを見上げながら訴えた。

 驚いたのは、彼女が東電・広瀬直己常務の小学校時代の同級生ということだった。広瀬常務は原発事故の補償担当である。「広瀬さん、あなただったらきっと(満足な補償が)できるはずです」。彼女は幾度も叫んだ。途中で息が切れるほど懸命だった。

駆け付けた援軍は「原発いらない」と声をあげた。=写真:筆者撮影=

駆け付けた援軍は「原発いらない」と声をあげた。=写真:筆者撮影=

 「一人で東電前に立つ」。数日前からツイッターで呟いていたため、次から次へと援軍が駆け付けた。昼休みが終わる頃には10人(太さん含む)に膨れあがった。

 横須賀から演劇家、都内在住の音楽ライター……。皆、「太さんを一人にしてはいけない」との思いで駆け付けた。予定通り1時間の抗議行動が終わるとハンドルネームでお互い呼んで労いあった。「猫山さん、有難う」「モリッチさん、ご苦労さま」…

 東電警備の警察官は「皆さん、どこの団体ですか?」と尋問した。
 
 「皆、今日初めて出会ったんです。ツイッター上では友達ですけど・・・」

 警察官は目を白黒させるばかりだった。何の組織にも属さない市民一人ひとりがインターネットでつながる。キーワードは唯ひとつ「脱原発」だ。権力にとってこれほど手強いものはない。エジプト市民革命が「打倒ムバラク」でつながったのと同じだ。インターネットで呼びかけ合ったのだった。

 「毎日違う人がやるのがいい」。太さんは力むことなく語る。アリの一穴が数千万個も空いたら巨大な原子力村とて倒壊し始めるのではなかろうか。

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