世界最悪の環境汚染が進行している可能性には全く触れず、バラ色のカレンダーを提示する。詐欺と呼ばずに何と呼ぼう。17日、東京電力が発表した、福島原発事故収束への「新・工程表」のことである。
1か月前に発表した工程表との違いは、冠水を事実上あきらめたことと、作業項目を増やしたことだ。避難民が早ければ年内にも帰還できると見通すスケジュールに変更はない。これには目を疑った。
原子力部門の最高責任者である武藤栄・副社長は「ステップ2に向けてステップ1は順調に進んでいる」と胸を張った(17日記者会見)。
「ステップ1」とは「放射線量が着実に減少傾向になっている」段階のことで、7月中旬を目途とする。
「ステップ2」とは「放射性物質の放出が管理され、放出量が大幅に抑えられている」段階のことで10月中旬から来年1月中旬を目途とする。
「ステップ1が順調に進んでいる」(武藤副社長)と言うのは大ボラだ。1号機は最後の砦といわれる格納容器に穴があき、高濃度汚染水が大量に原子炉建屋に流れ出ているのである。東電が認めている量だけでも3千立方メートル。
建屋はそもそも放射能の遮蔽施設ではない。格納容器が最終遮蔽施設なのである。建屋の床は地震でヒビも入っているだろう。高濃度汚染水が地下に滲み出ていることは高校生でも察しがつく。当然、地下水脈に流れ込んでいる。土壌汚染や海洋汚染は広い範囲にわたって半永久的に続くのである。
この日の記者会見で松本本部長代理は「メルトダウンは事故発生当日(3月12日)の夕方に始まっていた」と正式に明らかにした。だが、松本氏がメルトダウンを認めたのはつい数日前だ。
隠ぺいでなければ、あまりにもお粗末な現状把握である。そんな東電が見通したスケジュールなど信用できるだろうか。
【危機意識のかけらもない海江田経産相】
東電より30分遅れて経産省の記者会見が始まった。筆者は東電記者会見の冒頭部分に出席した後、経産省に移動した。
経産省で配布された工程表は東電と寸分違わぬ物だった。強いて言えば印刷の色具合が少し違うくらいか。
筆者は前段の事実をあげて海江田経産相に「こんないい加減な工程表をなぜ政府は認めたのか?」と質問した。
海江田大臣は「そうならないように(地下水脈に流れ込まないように)東電にはお願いしている」と悠長に答えるだけだった。
今回の事故の遠因である2002年発覚の事故隠しは、当時の通産省(現経産省)が密接に関係している。共犯関係だ。ここを明らかにせず旧弊が温存されたままではまた同じような事故が起きる。
「事故隠しの件を明らかにするつもりはあるのか?」と尋ねると海江田大臣は「今は福島原発の事故の問題を検証することが大事」とかわした。
「逃げ口上ですよ」
「いいえ逃げ口上ではありません」
ここで記者クラブ幹事社に遮られ、追及は不発に終わった。
そこには危機意識のかけらもなかった。
海江田大臣の冒頭挨拶は政府の姿勢を示していた―「原子力(原発事故)被災者は国の政策による被害者です。最後まで国が前面に立って対応する」。
海江田氏の発言は “損害賠償は国家が面倒見ますよ” ということなのだ。言い方を換えれば “東電は守る” ということである。
フリーランスの岩上安身記者が「東電の資産、例えば送電網などを担保に取ってでも東電に償わせることは考えていないのか?」と質したことについて、海江田大臣は答えなかった。「東電を免責しない」などと曖昧な表現でかわした。
民主党政権、経産省、記者クラブが三位一体になって守ろうとしているのは電力業界だ。国民の生活ではない。我々の健やかな生活を守るのは我々自身だ。
東電解体に向けた工程表は国民の手で作るしかなさそうである。