【カイロ発】外国人ジャ-ナリスト受難

山刀と棍棒で武装する「ムバラク支持派」の男性たち。(3日、エジプト考古学博物館北側の地区で。写真:筆者撮影)

山刀と棍棒で武装する「ムバラク支持派」の男性たち。(3日、エジプト考古学博物館北側の地区で。写真:筆者撮影)

 タフリール広場とその周辺はジャーナリストにとって惨たんたる状況となっている。3日、外国人ジャーナリスト数十人が軍に身柄を拘束され、多数が群衆に棍棒で殴られるなどして負傷した。

 軍がいきなりジャーナリストを拘束するよりも、群衆が軍にジャーナリストを突き出すケースの方が圧倒的に多い。4日、筆者も突き出され現地コーディネーターが拘束された。

 群衆とは「反ムバラク派」と「ムバラク支持派」の両方である。ジャーナリストを軍に突き出したり、暴行を加えたりする理由は次の通りだ―

・「ムバラク打倒派」の場合:
 ムバラク政権を倒すために外国からカネをもらっているという説がある。これを打ち消すために外国人ジャーナリストを軍隊に突き出す。

・「ムバラク支持派」の場合:
 外国人ジャーナリストを「ムバラク打倒派」の支援勢力とみなしているようだ。ジャーナリストを敵の一味と見て軍隊に突き出す。

 カメラを手にしたジャ-ナリストに対しては別の心理も加わる。3日、エジプト博物館を挟んで北側の地区で、筆者はムバラク支持者の男性2人の後ろ姿、それも腰から下だけを撮影した。1人は山刀、もう一人は長さ1メートル余の棍棒を手にしている。 
 
 棍棒を手にした男性がいきなり走って来て喚き散らした。「お前が写した写真が公開されたら、俺の顔を見た警察から逮捕されるじゃないか。写真を消せ」。コーデネーターが上手にとりなしてくれ、筆者は難を逃れた。

 現地コーディネーターはアブダッラー氏。28歳と若いがなかなかのしっかり者だ。相手が日本人であっても高額の報酬など要求せず、困難な仕事を嫌な顔ひとつぜずこなしてくれた。氏がいなければ筆者は前出の「ムバラク支持派」からメッタ打ちにされていただろう。

 こんなこともあった。軍のチェックポイントでの出来事だ。筆者は戦車の上で新聞を読んでいた兵士を取材車の中から撮影した。車中からなので大丈夫だろうと思っていたが、別の兵士が見ていた。兵士は「カメラを出せ」とジェスチャーを交えて迫った。代わりに撮影画像の入ったチップを渡したが、それでも聞かなかった。兵士は「カメラを渡せ」と強硬に要求した。

 筆者は没収されるものと諦めたが、ここでもアブダッラー氏が上手にとりなしてくれカメラを失わずに済んだ。

 だが氏の神通力も長く続かなかった。タフリール広場に向かう長い人の列を撮影していると初老の男性が大声で怒鳴りつけてきた。大変な剣幕だ。男性はすぐ近くのチェックポイントにいる軍に通報したようだ。部下3~4人を引き連れて駆け着けて来た軍の現場指揮官は筆者に「撮影画像を見せろ」と命じた。

 写っているのは「長い人の列」だけで問題はないだろうとタカをくくっていたが、そうではなかった。現場を移動する際に撮影チップを代えるのを忘れていたようだ。焼き討ちに遭った警察署の画像も含まれていたのだった。「これは何だ」、指揮官の表情が一瞬にして険しいものに変わった。

 日本人の筆者はその場から立ち去るよう命じられたが、アブダッラー氏はそのまま拘束された。その後拘束を解かれたとの報せが氏から筆者の携帯に入り、ひとまず胸を撫で降ろした。軍は拘束を解く条件として筆者のコーディネーターを2度としないことを告げたという。

 アブダッラー氏は後任を紹介すると筆者の目の前から消えた。氏には申し訳ない気持ちで一杯だ。


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