【ハケンという蟻地獄】
派遣労働者にとって2010年の夏は、これまでになくジリジリと身を焦がす暑い季節となっている。
昨年6月、当時野党だった民主党、国民新党、社民党は「日雇い派遣」と「製造業への労働者派遣」を禁じる「3党合意」を結び、8月の総選挙で政権の座に就いた。
不安定雇用の温床である「日雇い派遣」と労働者を部品のひとつとして扱う「製造業への派遣」を法律で禁止するというのである。派遣労働者たちは貧困と不安から解放されるとして歓迎した。政権党の民主党がスローガンに掲げていた「国民の生活が第一」にも適う。
だが派遣労働者の希望は一年も持たなかった。民主党内のゴタゴタや社民党の連立政権からの離脱などで「労働者派遣法の改正」は通常国会で成立しなかったのである。そして参院選での民主党の大敗。議席数で野党が上回る「ねじれ国会」となっため「3党合意」の効力は、大きく薄れた。
最大野党の自民党とみんなの党は、派遣労働は必要との立場から派遣法の改正に真っ向から反対している。派遣法の改正は危うい状況なのである。
「一昨年末、数万人単位の労働者が職と住居を同時に失った「派遣切り」の惨事を繰り返してはならない」。派遣労働者のユニオンは、野党の巻き返しに遭う前に行政権限の範囲内で、悪しき現状に少しでも歯止めをかけようと厚労省との交渉を続けている。
30日には参院会館で労働基準局監督課の担当者らと話し合いを持った。ユニオン側は実例を挙げて「『違法派遣、偽装請負』の取り締り」などを求めたが、厚労省側は「法令違反があれば……」と明確な答えを避けた。毎度繰り返される光景だ。
経営者側のためにあった労働法制と労働行政を、労働者側のものに変える。生活苦にさらされる非正規労働者が政権交代に期待したのは、この大転換だった。
「労働者派遣法の改正」を成立させるために残されている戦術は数少ない。政界関係者によれば、公明党と共産党を抱き込む方法があるという。